売名
「ほら、あの人あの人」
「どれ?」
「あの人、左から3人目の」
「あの人がなに?」
「ちゃうよ、ちゃうちゃう、あの人やないよ、嫁さんは」
「あの人やないか。ママン、知らんの?」
「知ってるよ。あの人やないて、藤あや子とはちゃうよ」
「ママン、なんか勘違いしてるんやないか?」
「勘違いしてるんは、おとーさんやて」
「おれかなあ? 藤あや子やで、嫁さん。だれよ?」
「それが思い出せるんやったら、スッと言うわいな」
「藤あや子と思うたけどなあ?」
「新聞でな、『折々の言葉』ちゅんがあるんやけど、この前、杉良太郎が言うた言葉ちゅうんが載ってたけど、なかなか良かったな」
「なんて言うてた?」
「東北の被災地で、ボランティア活動で炊き出しのカレー混ぜてたときリポーターに、『それって売名ですか』って訊かれたんやて」
「むしんけーなやつもおるんやな」
「ところが杉良太郎えらいな」
「ぼこぼこにした」
「いやあ、そんなことせーへん。『ハイ、売名です。あなたも売名したら? みんな助かるよ』言うたんやて。えらいよな、杉さまは」
「思い出したわ」
「なにを?」
「杉良太郎の嫁さん」
「だれやったかな、さっきおれが言うたんは?」
「テレビ終わってるよ」
「あの人とちゃうの?」
「ちゃう。伍代夏子」
「そやろ。伍代夏子やろ。おれそう言うたやろ?」
「もうええわ」