しゃべれどもしゃべれども
「ママン、昨日の昼、BSでやってた映画に出てた男の子、あれだれやったかいな?」
「どんな映画やった?」
「落語の」
「あああれ、男の子て、あの子供?」
「いや子供やない」
「だれやったかいな?」
「主役の、若手落語家の役、グループのひとりで、ナイナイの、料理の値段当てる番組にも出てたあれ、だれやったかいな?」
「あああの子、コクブン君やろ。男の子いうから子供のことか思た」
「コクブンいうんか。おれ、コクブや思てた」
「コクブン君や。トキオのメンバーや」
「若手落語家の役、がんばってたな」
「あんなん出来るて、思わなかったわ」
「あの子役の子も、シジャクのものまねなんかして、『まんじゅうこわい』うまいことやってたな」
「ほんまほんま。生き生きとやってたわ。感心して観てた」
「よーあれだけのセリフ憶えたな。あの関西弁、違和感なかったわ。大阪かどこか、関西の子やろな」
「落語覚えるて、大変なんやろ?」
「ちょっと好きくらいじゃ、あかんやろ」
「おとーさんも、落語好きやろ?」
「好きやろ言われたら、嫌いやないけど、大好きとは言えんな」
「映画みたいに、習ろたら?」
「あかん。すぐお手上げや。九州弁のアクセントから直しよったら、それだけでアウトやな」
「それやったら、九州弁の落語やったらええねん」
「まあ、やるとしたらそうなるわな」
「さすがに師匠役のてんぷくトリオ、伊東四朗はうまいな。声がええからな。小沢昭一の落語もよかったな」
「おとーさん、あの人好きやったな。もうだいぶなるやろ、死んでから」
「もう10年くらいにはなるやろ。中之島の公会堂に来たんで観に行ったことがあるけど、ハーモニカがうまいんや」
「『の・ようなもの』いう映画も、落語家のタマゴが主役の映画やったけど、あれ朝やったか夜やったか思い出されんけど、落語のネタ覚えるのに、あれ家まで帰る途中やったんやろか、どんどんどんどん、川沿いとか、あんまり人通りのないとこどんどん歩きながら、落語のセリフを覚えるシーンがあったけど、あの映画もおもろかったな。秋吉久美子のソープ嬢やろ、『の・ようなもの』いう題もわけわからんけどよかったな。この監督、名前なんやったかいな『家族ゲーム』いうんがあって、ちょっと成績の悪い受験生のおとーさん役が伊丹十三、おかーさん役が由紀さおり、家庭教師役があれ、なんやったか名前、なんとかゆーさく、おとーさん役の伊丹十三がおかーさん役の由紀さおりに目玉焼きの焼き加減のことで文句言うんや、焼き過ぎやー言うて」
「おとーさんも真似してたな。黄身のやらかいところをちゅるちゅるするんが好きやァ言うて」
「そうそう、伊丹十三もイチゾウいうたりジュウゾウいうたり、個性のある人やったな。『北京の55日』いう映画に出ててころはイチゾウやったと思うけど、監督で『お葬式』やったあと、『マルサの女シリーズ』で大ブレークやって、いっつも眉間にシワ作って笑ろてんのか困ってんのかわからん顔で、とうとう死んでもうたな。限界やったんやろかなー」
「おとーさんもよー映画観てんな」
「マイシネマパラダイスやからな」
「シジャクが落語の笑いは『緊張の緩和』、ダンシは『人間の業の肯定』言うてるし、緊張の緩和はなんとのうわかるけど、業の肯定はいまひとつしっくりこんのやけどな」
「人を笑かすにも、難しい理屈がいるんやね」
「いろいろ考えよったら、そないなことやろなあと、思い至るというか、簡単なように思うけど、泣かすよりややこしいらしいで」
「よっぽど好きやないとな」
「そうそう、ママンもやってみるか?」
「なにを?」
「落語でも漫才でも。コントでもええで」
「だれとやんの?」
「おれとやったらええやん」
「あかん。よけー緊張するわ」
「なんで?」
「わからんけど、そんな気がする」
「だれやったええの?」
「そやなー、だれにしょ? キムタクにしよか」
「キムタク? よけい緊張するやろ」
「大丈夫や。あんまり好きやないから」