時空のゆがみ? やて?
「ママンとかおれとか、ジャンプするやろ? けど、ジャンプしたままそこで、宙に浮いてるままでおることはでけへんのはなんでか? 知ってるか?」
「なんの話? えッ? チコちゃんでやってた? そら、引力があるからやろ」
「だれもがそう言うけど、それだけやないらしいわ」
「ほかになにがあんの? えーッ! それなに? ジクウのユガミ? なによそれ?」
「時空のゆがみいうんがどんなんか、分かりやすうにやってたけど、『ああ、なるほど、そういうことか』て、ようわかったわ」
「どんなことやってたん?」
「タテヨコ50センチ、厚さ5センチほどのやらかいスポンジの上にな。このスポンジにはタテヨコに何本も直線を引いてあるやつやけど」
「はあ?」
「その真ん中あたりに丸い、野球のボールくらいの鉄の球を置くと下のスポンジはどうなると思う?」
「どうなるか? て? どーもならへんやろ。えッ? そうかやらかいスポンジやったな。重い鉄の球やったらスポンジへこむやろ?」
「そやろ、へこむやろ。けど、それだけやないねん、もうひとつあんねん」
「もうひとつて、なによ?」
「スポンジの上に何本も直線を引いてあるんはなんのためか? いうやつ」
「ああ、線引いてある言うたな、なんのため?」
「鉄の球の重さでその周りのスポンジがへこむと、引いてある直線がどうなるかというと、まっすぐやなくなるやろ? どや、これが時空のゆがみ、いうやつや」
「なんやのん、自分で見つけたみたいに」
「時空のゆがみがあるから、それに人間は鳥みたいにハネやツバサがあるわけやないし空中でとどまることができん、ジャンプしてもすぐに着地するんは、時空のゆがみのせいやいうて、5歳のチコちゃんが教えてくれた」
「あの子、よう知ってるからな。専門家の先生も『5歳とはとても思えん』いうて感心してたけど、けど、もひとつしっくりこんのやけど、なんで時空のゆがみがあるとそないなことになるんか、わからん」
「おれがチコちゃん観てたとき、ママンはどこいってた?」
「あれ、おとーさん知らんかったん? お化粧やないの、女のみだしなみ」
「そうか、女の人はママンに限らず、カガミの周囲に時空のゆがみが発生するんやな」
「わたしが化粧することによって、なにが起こるか教えてやろか?」
「なにが起こるんや?」
「わからんか?」
「わからんな?」
「おとーさん、鈍感やな。いま言うたばっかりやないの」
「なにを?」
「時空のゆがみ」
「時空のゆがみ? なにそれ?」
「ほんまにもうかなわんな。時空のゆがみで、おとーさんがわたしに引き寄せられる、そういうことやないの」
「ハハハ、あたってるわ。さすが、ママンも腕あげたな」
「おだててもアカンで。まだ聞いてないで、時空のゆがみで、なんでジャンプしてもすぐ落ちるのか聞いてないやろ」
「それそれ、そやったな。これが目からウロコやねん。その鉄の球の重みで、ゆがんだスポンジの線の近くにビー玉を置くやろ、どうなる?」
「そら、その部分が下り坂になってるわけやから、ビー玉ころころ転がって鉄の球にぶつかるやろ?」
「そう、それが答えや。ビー玉が人間で鉄の球が地球としたら、重力だけやない、その時空ゆがみのせいでジャンプしたままではおられん、というわけや」
「なんとのうわかったような気もするけど、ビー玉が引き寄せられるいうんも、時空のゆがみやなんて目に見えんことをええことに、ダマされてるんとちゃう? ビー玉が引き寄せられるいうても、そこが下り坂になってるから、そのせいで転がる、それだけの話やないの?」
「うーん? そこまではおれもわからん。5歳の子におれが欺されてるいうんか?」
「おとーさん。おとーさんみたいな人が、オレオレ詐欺にうまいこと、引っかかるんやで、気ィつけや」