ママン、教えて
「なに?」
「政治のことやけど」
「セイジて? あのアベさんがやってる、あの政治のこと、わたしに訊きたいて? むりむりむり。アホなこと言ういな」
「そない言わんと教えてよ。どーもわけわからん?」
「おとーさんにわからんことが、わたしにわかるわけないやろ」
「いやいや、そうとも言えんで」
「なんでェ?」
「早い話が、ママンの頭とおれの頭、ちゃうやろ? 一緒やないやろ?」
「そらそうよ。パーツみたいに『ハイ、交換』いうて取り替えが出来るんやったらええけど、そやないからね」
「そういうこと。おれが思たこともない答えが、ママンの頭ん中に詰まってるかも知れんからな」
「ないと思うけど。あとコープで納豆買うだけやから聞いたろ。なによ?」
「いや、おれもな、もう、政治のことはええか、言うてもしゃーない、おれらごときがなんやかや言うたところで、ゴマメの歯ぎしりやからな」
「ゴマメ? 歯ぎしりすんの? 正月、うるさいな」
「ママン、ええこと言やないか。また一段とウデあげて」
「そやろ。おとーさんがフってくれたんを無視したらまた、あとでなんと言われるかわからんやろ」
「そらそうや。けどフったつもりはなかったんやけどな。いやいや、言わんつもりでおったんや、政治のこと、やけどな」
「なにかあったん?」
「うん、きのうの新聞読んでたらな、83歳の男の、おじいさんが、男のはいらんか、投稿してはったんや。読者のページみたんなんがあるやろ? あれに。それでな」
「どんなこと、言うてはったん?」
「『前言撤回 不思議でならない』言うてな。おれらの手本にならないかんような国会議員のえらい先生方がわけのわからんこと言うてはるやん。『なんとかさんは復興以上に大事』とか、『忖度』したとかせなんだとか、もっと前には『それがわかりゃ苦労はせん』とか、あったわなあ」
「あったねえ。というてアブクみたいにいつのまにか、消えてしまうけど」
「『そんなつもりで言うたんちゃう』とか『誤解』やとか、そんな意味でとられたんやったら『撤回』するとか、明らかにそんなつもりで言うてはるのに『撤回』してそれでチョンいうんが不思議でしょがない、そない83歳のおじいさんは言うてはんねん」
「なあ。どないしょ。そないいうておとーさんに訊かれても、答えようがない。わたしより10歳(とお)以上上のおじいさんが不思議や言うてはるんやろ。なあ、そういうことやろ。おとーさんに訊かれても答えようがないわ」
「おれと違う頭で考えてもわからんか」
「わからんな」
「そのおじいさん、いや、おじいさんはやめとこ、おれもおじいさんやからな。不思議なんは国会議員だけやない、そんな議員さんに対して大多数の人が無関心でおる、これもまた不思議でしょがない、こないいうてはんねや」
「なあ、水戸黄門観てたら、『恥ずかしくはないのか! あとで厳しい沙汰があるので覚悟して待つがよい』それでパチパチ拍手やけどね。あの人らも時代がいまでよかったね。これが頭にチョンマゲ載せていた時代やったら、『いっぺん死んでみるか』いうて『撤回』なんかありえへんかったのに。よかったよかった」