ジジイの更年期障害
「ママン、あかんわ。我慢でけへん」
「なにがァ?」
「ママンは時代が違う、言うて楽しんでるけど、おれの好みにはあわん、あれ」
「『なつぞら』のことやろ。それやったら観なんだらええのに。週間視聴率は毎週一位キープしてるよ。大勢の人が楽しんで観てはる証拠やないの」
「うん、わかってんねん。視聴率のことも知ってるんやけど、その人たちにも『なんやねん!』思てしまうんやな。なにをイライラしてんのか、自分でもわかってるんや。なんやねん広瀬すず、ファッション雑誌から抜け出てきたみたいにとっかえひっかえ衣装替えて、あれ、だれに買うてもろてんの? お母さん役の松嶋菜々子か? おじい役の草刈正雄か? 酪農いうんはよっぽど儲かるんやな。菜々子と二人でトーキョー行ったときもそーや。場面変わるごと着替えて、服何着持っていったんや? おーきなボストンバッグ持って行ったんか? BS・NHKも『おしん』のあとによーこんな時代も世相も無視したよーなドラマ、よー作ったもんや」
「えーやないの。オモロイやないの。おとーさんおしんおしん言うけど、『おしん』とは時代がちゃうんやから。もともとこれマンガかなんかとちゃうの? 知らんけど」
「いや、オレも知らんけど。製作の連中、なんか視聴者ばかにしてんのとちゃうか? それやないんやったら自虐趣味でもあるんか。ナレーターやってるんもだれか知らんけど、コイツのセリフも『すずよ、トーキョーに行ってもなんやらかんやら』、上から目線で教え諭すよーに言うし、イライラするわ」
「よー言うわおとーさん。こーねんきしょーがいやな。ジジイのこーねんきしょーがい。トシとったら気が短こうなるいうけどそのとおり。おとーさんおめでとう。元気で長生き、ジジイになった証拠や。人から嫌われるよ。憎まれ口ばかり言うて。すーッとしたやろ、これだけ言うたら」
「すーッとせんわ、よけーハラたってきた」
「ごくろーなこっちゃな、おとーさんは。長生きできんでおとーさん。知らんけど」