昨日の続き
「ママン、昨日の続きの話やけどな」
「昨日の続きて、なんの話やった?」
「憶えてないか?」
「憶えてないこともないけど、一個だけやないやろ。いくつも話したんちゃう? 知らんけど」
「そやな。後悔するとかせんとかいう話、したやろ? 憶えてるか?」
「ああ、憶えてるよ。おとーさんがわたしと結婚したこと失敗やった、後悔してる、そんな話やったやろ。よー憶えてる、イッショー忘れへん」
「無茶なこと言ーな。逆ギャク、一緒になったことだけはコーカイしてない言うたやないか」
「そーやった? それならえーけど」
「コワイわ。子供のころの話やけどな」
「自分がアブナなったらすぐ話題変えるやろ。おとーさん、カメレオンか」
「まあええわ。アイスキャンデーあるやろ?」
「ああ、ボーのついたやつ」
「子供のころ、1本5円やったんや」
「そんなもんやったんやろな」
「おっかさんからもらう小遣いが日に5円で、これ買うともうオシマイや」
「友達と一緒に、すぐ近くに川があったからな、泳ぎに行くついでにそのキャンデー、キャンデー屋で買うんやけど、友達はキャンデー買うカネ持ってんのか持ってないのかわからんけど、おれだけが買うて、おれだけで食うちゅうことはなかったんや」
「そーなん? 自分だけで食べたらええやん」
「そやねん。それがな、コーベに出て来たとき不思議やったんや」
「なにが? なにが不思議なん?」
「いやあ、おれがコーベ来たんは17のときやけど、友達らしい子供がふたりで歩いてるとするやろ。ところが片方の子ォがなにかかぶりついて食ってても、それ千切って『これ、半分食べ』ちゅうよーなこと言わんのを見て『へえー』思たことあったんや」
「自分のおカネで買うたんやもん、当たり前やろ。反対に、相手が食べてても、欲しいなんて思わへん」
「うん、そーや。いまはそーや思うけど、そんときゃな」
「それでおとーさんはキャンデー食べさしたったんやな?」
「そうそう、『ひとくち噛め』言うてな」
「おとーさんが食べたとこを食べさすの?」
「いや、おれは上のほうから食べてるやろ? そやから手に持ってるボーの近くの角のとこや。ここからな、ちょっとづつ溶けたコーリの汁が垂れるやろ。そこをな、友達の口の近くに持って行くんや」
「そう。えやないの。友達らしいわ」
「ところがな、いまでも思い出すんはアクシデント発生があったんや」
「えらいことやないのアクシデントて、なにごとが起きたん?」
「まあ、ちょっとオーバーに言うたんやけどな。友達がガブッと噛んだその上の部分がボーからはずれて、手に残ったんはボーだけや。おれもヒトクチしか食うてないし、落ちたんは泥まみれや。ヒローてドロ落として食うわけにもいかんし、『オシイことした』思て、いまでも思い出すとクヤシイ、コーカイしてんねん」
「おとーさん、なんやねんみみっちいこと言うて。考えかたがギャク逆、それヒローてドロ落として食べとってみー。今度はいまんなってそれコーカイせんならんとこや。わたしもよーこんなみみっちい人と、結婚したな。この話聞いて、コーカイするわ」
「あー、コーカイせなんだらよかった」