東野英治郎の水戸黄門シリーズを観るー1
「最近では佐野浅夫とか、昔、助さん役やった里見浩太朗の黄門さん観て思うんは、やっぱりシリーズ最初の頃の東野英冶郎の黄門さんが一番ええなあ」
「そうやね。簡単に『この紋所が』言わへんしな」
「そうそう、作りが単純になって、あれは脚本のせいやろな。時間来たら簡単に印籠出しよるからな。それはそれで観てスッキリする人もいてはるやろからええっちゃええんやけど」
「けど、黄門さんて人気があるんやなあ。おとーさんは前から観てた?」
「いや、観てない。子供の頃、東映の時代劇で水戸黄門、月形龍之介がやってたんや。それ観てるからテレビで東野英治郎が黄門さんやるなんてなんやねん、そない思てたからな」
「なんで?」
「なんでって、おれが映画で知ってる東野英治郎言うたら汚れ役専門みたいなイメージがあったからな。月形龍之介と比べてしまうから全然観る気なんか起きなんだんや」
「いま観たらどないなん?」
「ええなあ。さすがは一流の役者さんや思う。おれが歳とったせいもあるやろけどな。ちゃーんと威厳のある黄門さんになってはるわ」
「そう、そうやねえ」
「おれが観て一番びっくりしたんは映画の黄門さん、月形龍之介が出てたことや。あれにはびっくりしたな。もちろん黄門さんやないで。村の庄屋さんかなんかやったと思うけど、東野英治郎の黄門さんに最後は助けてもろうてお礼言うというような、そんな役やったと思うわ。あれにはびっくりしたな」
「わたしは観てないからな。びっくりもしなかったよ」
「一緒に観てたんとちゃうかった?」
「テレビはな。けど映画の黄門さんは観てないから」
「ああ、そういう意味か。東野英治郎の黄門さん、始まったんはもう10年前か、いやもっと前かもしらんけど、亡くなってはる人がけっこう出てはるんやな。昨日は島田正吾が南部鉄器の名のある職人さんの役で出てはってびっくりしたけど、ええよなあ、島田正吾、辰巳柳太郎、新国劇の2枚看板。辰巳柳太郎いうたら大友柳太朗の先生やいうてたな」
「大友柳太朗いうたら、あの大友柳太朗?」
「そう、あの大友柳太朗。おれらが子供の頃『笛吹童子』とか、『紅孔雀』とかに出てて、どっちの役だったか憶えてないけど手の甲に三日月形の傷があって、五升酒の猩々とかいうて大酒飲み。チャンバラのときよう真似して、赤いクレヨンで描いたもんや」
「あのころはよう流行ったからね、チャンバラごっこ。鞍馬天狗とか」
「鞍馬天狗、アラカンか。嵐寛寿郎。この人は出てないのかな黄門さん?」
「どうやろ。調べてみたら」
「見当たらんなあ。1980年の10月か、亡くなってはるからな。40年近く前やからな」
「そしたら無理か」
「いや、東野英治郎の黄門さん始まったんは1969年になってるわ。ということは、場合によっては『水戸黄門と鞍馬天狗』があったとしてもおかしない、いうことか」
「おとーさん、なに言うてんの。時代が違うやろ」(つづく)