誰やったか?
「おとーさん、あの人の名前、誰やった?」
「誰やったか。急には出てこんな」
「アメリカの俳優さんやろ」
「そうや」
「新聞、見てみる?」
「いや、見らへん。思い出す。『あ』からいってみよか。アーノルド・シュワルツェネッガーや」
「ハハハ、なに言うてんの」
「アラン・ドロン。ちゃうか」
「ちゃうやないの。アメリカとちゃうやろ」
「フランスか。アン・マーグレット」
「誰?」
「女優さんや。アントニオ猪木」
「むちゃくちゃやな」
「『い』にいってみよか。イアン・フレミング、ちゃうな」
「だれ、それ」
「俳優やないけどな。たしか007の原作者やったと思う」
「ショーン・コネリーやろ」
「そうそう。うーん、『い』はなかなか思いつかんなあ。『う』う、う、っと」
「ウォルトなんとかいう人がおったんやないの」
「ウォルト・ディズ二ーやな。俳優やないな。ウォルター・ブレナンか。渋い俳優思い出したな。西部劇やな。『駅馬車』、『リオ・ブラボー』。ええなあ。思い出した、ウォルター・マッソーや。『フロント・ページ』ジャック・レモン。それと少年野球の映画、飛行機で逃げるやつ、列車が暴走するやつ。とぼけてるからなあ、ウォルター・まっソー。ウォルター・ヒューストンというのもおったかな?」
「出てこんやないの、なかなか。新聞見たら?」
「あかん。ママンも見たらあかんで」
「『え』やな。エバー・マリー・セイント」
「違う。そんな名前やないわ」
「わかってんねん。女優さんや。エド・ハリス・・・エンリオ・モリコーネ」
「そんな名前とは違うよ。たしか、フランクリンなんとかやったと思うけど」
「フランクリンかあ? そんな名前とはちゃうやろ。これ大統領の名前やで」
「たしかそんな名前だったように思うよ。なんとかフランクリンやったか、フランクリンなんとかやったか」
「そんな名前とはちゃうぞ。『お』やな。オットー・プレミンジャー、オリバー・ストーン、監督やな。オーソン・ウェルズ。岡田英次、岡田茉莉子、岡本喜八、奥田瑛二」
「なに言うてんの。日本人やないの」
「オーマイガーや。日本人やったらなんぼでも出るんやけどな」
「新聞見るよ、わたしが」
「あかん。絶対思い出すて、入ってるんやからここに。次は『か』やな」
「しつこいな、おとーさんは」
「これが取り柄や。『か』やったな。カーク・ダグラス」
「違うやないの」
「わかってるよ。頭に浮かんだんは言うとかんと。ほーら、ママンが腰折るからスッと出らんやろ。カラミティ・ジェーンでどうや」
「おとーさん、思い出したわ」
「言うたらあかんで」
「フフフ、わたしさっき、なんて言うてた?」
「えッ? なんて言うてたかな」