朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

落語『蜘蛛の糸』-7

 というようなわけで、地獄というところは大変に恐ろしいところでございます。と申しましても、地獄は一様ではございません。わたくしなどのようなごく平凡な「名もなくせこくいじましく」生きている者の悪事などたかがしれたもので、拾った100円玉をポケットにないないしたとか、ちょっとばかり飲み過ぎてよりによって公衆トイレの建物の壁に向かって放尿、立ちションをするというのがせいぜいで、まあ言わば、悪事といっても可愛らしいもので、閻魔大王によるお裁きもございません。そらそうですわな、きりがございませんからね。兵隊の位で申しますと閻魔大王を大将、例えば赤鬼青鬼と位が順々に下がっていくと仮定しましてもっとも下の2等兵、その2等兵にあたるのがまだら鬼のブッチ太夫と仮定しますとそのブッチ太夫閻魔大王に代わって裁きをするという、いたってええかげんなお裁きもあるのでございます。

 従いまして罰のなかでも一番軽いものを犯した、まあわたくしのような者は一定のノルマさえ果たせばあとは寝ていようが番卒の灰色鬼や灰緑鬼などと将棋や碁などのゲームも許されておるのでございます。メンツさえ揃えばマージャン台も用意してあるという、いたって気楽なところも地獄の一面でございます。

 いつもこのお噺を申しますと、お客様のなかで、何人かのかたがホッとした表情をされ笑顔になって肩の力が抜けるという、これも落語の極意「緊張と緩和」、噺家冥利なのでございます。

 とは申しましても地獄はやはり怖いところで、あの閻魔大王の後方に掲げられております制作者「TARO」氏の壁画もまた、嘘偽りのものではございません。これは罪のもっとも重い者どもの仕置きの場所を写しとったものなのでございます。ここでひとつ誤解なきようにお断りを申し上げますが、生前、現在生きておりますこの世界でのことでございますが、自分の立場を利用し、裏にまわって大きな悪事を働きながらもスルリと法の網の目をくぐり抜け、のうのうとゼイタク三昧、おまけに神も仏もないものか、90、100までも長生きをするという、こんな輩の悪事は天網恢々、閻魔大王のお裁きからは逃れられないのでございます。

 だれそれとは申しませんが「もし私のハニーが〇〇だったら、わ、私はXXをや、辞めますよ」としどろこどろ言った某国の最高責任者とか、国民の財産であるはずの重要な書類を勝手に、戦中戦後の時代かと見紛うほど真っ黒に塗りつぶし「それがわかりゃ苦労はしねえ」などとうそぶいている某国の財務大臣とか、はては数千万円という賄賂を受け取りながら借りたなどと偽って、借りたには不釣り合いの借用書をさも黄門様の印籠のようにふりかざした方とか、数億円もする、そんなんあるわけないやろという熊手を、いやいや領収書という証拠品がございますから間違いはないと思いますが、その熊手でもってその何倍ものおカネをかき集めようと企む御仁、自転車のようなエビを車エビと偽ったり、ニセエビをイセエビと言って誤魔化し法外な値段でお客を欺した某一流ホテルの経営者などなど、枚挙にいとまがございません。またこれは最近の話でございますが「あおり運転」というものが話題になっております。わたくしも運転の経験がございますのでその当事者の気持ちがまったくわからないとは申しませんが、しかしこれはいけません。今ほどお話しいたしました某国の最高指導者や財務大臣の巨悪に比べればあおり運転はまだ小さいことかもしれませんが、それでも悪質ということで考えますと、やはりこれは地獄の一番厳しいところへ入らなければならないのでございます。前の車のすれすれまで接近して激しくパッシングしたり、また横付けをしてエアガンで撃つなどの悪質な行為をしておりますと、きっちり地獄でその報いを受けるのでございます。赤鬼青鬼が金棒や棍棒を振り上げ、あおり走りで追い回されるのでございます。まあ、これくらいにしておきましょう、きりがございません。

 こういうことは、たとえ現世では通用しましても、地獄ではストップザ悪事、通用しないのでございます。

 ここまでお噺をいたしましたところでこうしてお客様のお顔を拝見しておりますが、おひとりとして緊張したり震えたりしておいでの方がいらっしゃいません。皆さんにこにこ笑顔でいらっしゃるので、わたくしも安心いたしました。(つづく)