朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

続・大間のマグロ釣り

 ほぼ半年間近づくことのなかった「川」の季節になります。泳ぐにはまだ早い、五月頃になると私は、竹の延べ竿を肩に「川通い」を始めます。今になって思えば、歩いて一〇分ほどのところにあった釣り場を、妙に遠く感じた記憶があります。学校が休みの日はまだ暗いうちに家を出ます。学校の日は、終わるのを待って、日が暮れるのを惜しむように竿を振ります。釣り針に刺した時は生きて動いていたエサが、二匹か三匹ハヤが釣れると針先で白く半透明に伸びきってしまいます。これが最後のエサなのです。

 夏休みが始まる前まで、学校は川での遊泳を禁止します。夏休みに入ると地区地区で遊泳場所が指定されます。

 まだ自由に泳ぐことが出来なかった小学校低学年の頃から、中学生など年上の子供達がが連れていってくれたのは学校が遊泳禁止に指定した場所でした。年上の子供達が向こう岸まで泳いで行くのを眺めながら、岸辺の浅いところで泳ぎの真似事をするか、水を含ませた砂を丸めて泥まんじゅうを作り、誰が作ったのが一番強いか、下に置いた泥まんじゅうに狙いを定めて、自分の膝の高さから自分がこしらえた渾身の一個を落として、割れたほうが負けというそんな遊びを、向こう岸の山陰に陽が落ちるまで続けました。

 いくらか泳げるようになって、ひとりで向こう岸まで行けるようになったのは、四年生か五年生の夏でした。遠くに感じた向こう岸でした。

 正月のこと、娘と話したのは、歳をとるとワクワクドキドキすることがなくなるという事でした。それで年末、テレビで「大間のマグロ釣り」を観た私は、「これだ」と思いました。私はこの話を娘にしました。

 テレビに映し出された何人かの漁師さんの中で最長老は、八七歳現役の、マグロ一本釣りの漁師さんでした。