朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

姓と名の呼び方

 熊本の片田舎から神戸へ出てきたのは一七歳の時でした。当時のことを振り返ってみますと、「若い根っこの会」という組織がありました。入会者は、中卒や高卒で就職した地方出身者が主ではなかったかと思います。何がきっかけだったか思い出せませんが私も入会しました。その時感じた違和感で、いまでも憶えているのが「姓と名の呼び方」です。

 私が中学校卒業までいた田舎町は、言わば狭い世界です。おまけに子供同士が名前を呼び合うときは姓ではなく名が普通です。当時東京や大阪など大都市の子供達が、友達の名を呼ぶときどう呼んでたか知る由もないのですが、私の田舎では、例えば友達が山田洋二であれば、「洋ちゃん」か「洋二君」が普通で、決して「山ちゃん」や「山田君」ではありませんでした。「やーさん」など考えも及びません。

 「若い根っこの会」で何人か友達(といっていいかどうか)が出来て自分の名が呼ばれたとき、私の姓に「やん」を付けたものでした。私の姓は漢字三文字で、それでは呼びにくいのは自分で言ってみてもそうですから仕方ないのですが、上の漢字二文字に「やん」が付けられて呼ばれたのです。

 私は、正直言って馬鹿にされたような気がしました。私の田舎では思いもつかないことでした。私は無意識のうちに「何々家」という「家」の重さ、プライドに捕らわれていたのです。

 『男はつらいよ』の車寅次郎は寅ちゃんとか寅さんとか、名で呼ばれます。対して渥美清さんは親しい人達に「渥美ちゃん」と姓で呼ばれています。私が知ってる有名人では黒澤明は「黒さん」、三船敏郎は「三船ちゃん」、小津安二郎は「オッちゃん」です。他にもありますがここでは省きます。

 これらの方々が自分の姓に「ちゃん」や「やん」をつけて初めて呼ばれたとき、どんな気持ちだったか訊いてみたい気もします。