2019-08-01から1ヶ月間の記事一覧
「この歳になるまで、勘違いしてたわ」 「なんのこと?」 「童謡で『七つの子』いうんがあるやろ」 「知ってるよ。♪カ~ラス♫~なぜ鳴くの~、やろ」 「そうそう。けどママン、歌がうまいな。ソプラノ歌手になったらよかったのに」 「道、間違うたかな」 「…
「今日は♪ ゴミの日♪ やな。火曜日か」 「金曜日」 「水曜日?」 「金曜日」 「そうか」 「捨ててきたろか」 「もう行ってきた」 「そうか。おばさんいてたか?」 「おばさんて、だれよ?」 「あの、缶ビールのふた、集めてる人。まえに行ったとき、いてはっ…
「ビビったな、昨日は」 「えっ? なんか怖いことあったん」 「いや怖いことはないけど、恐怖といやあ恐怖やな。自分のこれからに関することやからな」 「また、おとーさんは。なんでもオーバーに言えばええ思て。なにが自分のことに関するやのん」 「いや、…
「見て見て、おとーさん、美智子様、ピアノ弾いてはるよ。横顔、おかあさんに似てるんと違う?」 「シーッ、大きな声で言うたらあかん。捕まるで」 「わけのわからんこと言いな、おとーさん。いつの世の中の話してんの」 「大正時代生まれのおれには、トラウ…
「そやろ。そういうことや。こういうのを、なんて言うか知ってるか?」 「なんて言うの?」 「ことわざとかな、四文字熟語とかあるやろ。そういう喩えで言えば、なんと言うか、ちゅうことや」 「わからん、なんて言うの?」 「『ぼうず温けりゃケサまで温い…
「ママン」 「なに?」 「えらい世の中になったで」 「なにかあったん?」 「あったん言うてる場合やないで」 「だから、なにがあったんよ」 「繋がったんや」 「繋がった?」 「ああ、繋がったんや。おれが生きてるうちはこないなことゼッ、タイ、ない思て…
「おとーさん、あの人の名前、誰やった?」 「誰やったか。急には出てこんな」 「アメリカの俳優さんやろ」 「そうや」 「新聞、見てみる?」 「いや、見らへん。思い出す。『あ』からいってみよか。アーノルド・シュワルツェネッガーや」 「ハハハ、なに言…
黒澤映画がお好きな方でしたら上記、ちょっと長たらしいタイトルですが、もうよくご存じの映画『椿三十郎』のなかの印象深いセリフです。ほかにも、これは若侍役の田中邦衛に向かって言う「えめえ丑年の生まれか、なんかというと突っかかるが」とか、「ひと…
ブナの林を何度も訪れているうちに、私は発見したきのこ類を三つの仲間に区別するようになった。 第一番目の仲間は、これがいちばん数が多いのだが、傘の裏に放射状に襞がある。第二のものは、傘の裏が厚いクッションの裏打ちをしたようになり、目に見えるか…
「えらい違いやな」 「えらい違いやね」 「15分15分で、こないに違うか」 「ほんまやね。時代がちゃう、言うてられへんな」 「関東大震災の後、東京からダンナの郷の佐賀についていった『おしん』とそのあと続けて放映の『なつ』、片方が姑や小姑にこれ…
「つくづく思うな」 「なにを?」 「自分のこと」 「自分のことて、なに?」 「人間失格、いうことや」 「なんでそんなこと、今ごろになって言うの?」 「来年の2月には75の後期高齢者やからな。そろそろ自分の過去を総括して、おれはこういう人間、いや…
「ママン、ちょっと待って」 「なんで?」 「大友柳太朗が出んねん」 「そう、そしたらそれ観てからにしよか」 「うん」 「どんな役やろ?」 「わからん。前はえらい薄汚れた浪人役やったけど、こんどはどんな役やろ」 「おさむらさんさんや」 「うん。よう…
小川のずっと向こうのほうには、ブナの木立があった。幹はすべすべして真っすぐで、円柱が立ち並んでいるようである。その堂々と張った枝の暗い茂みの中では、新しく羽毛の生え変わったハシボソガラスたちが、古い羽毛を引き抜きながらやかましく鳴きたてて…
「ママン、聴いてくれる?」 「どないしたん、おとーさん、真剣な顔して」 「いや、思い切ってな、決心したんや。これはぜひ言うたほうがええやろ思てな」 「また訳のわからんこと考えたんとちゃうの。やめてよ」 「いや、大事なことやからな」 「おとーさん…
「『徹子の部屋』に出てはったな」 「だれのこと?」 「山本富士子」 「はあ、元気やったんやね。わからんかったからね」 「わからんかったて、なにが?」 「いやあ、知らんかったから」 「知らんかったて、なんのこと?」 「いや、元気やったらそれでええね…
私の村の西側は、プラムやリンゴの実る小さな庭が急斜面をなして階段状に続いている。それぞれの段々を支える丈の低い壁は、土の重みによって、人でいえば、肥って腹が出たように膨らみ、表面にむさ苦しく苔や地衣類を生やして黒ずんでいる。 この斜面の下に…
「打つ手、ないみたいやな」 「何の話?」 「いやあ、日韓問題。昨日もテレビ観てたけど、プロの人が三人出てはってあーでもないこーでもない言うてはったけど、話が一向に弾まん。どや? 言うたら、静観する以外ない、ちゅうのがお湯のなかで屁をこいたみた…
この繊細な荷物は、私がちょっとつまずいても割れてしまうであろう。だから私は、それ以上丘を登るのをあきらめた。お陽様が昇ってくる丘の頂きの、木々が立ち並んでいるところまで行く機会はそのうちまたあるだろう。私は斜面を降りていった。 ところが丘の…
あの日、私はおやつにリンゴをひとつもらって豊かな気分だったし、お手伝いを言いつけられてもいなかったので、手近な丘の頂まで行ってみようと思い立った。それまで、その丘は私にとって世界の涯であったのだ。尾根には木々が立ち並んでおり、風になびいて…
「お母さんがえらいんやな」 「何の話?」 「ゴルフで優勝したあの女の子のおかあさんの話」 「『いつも笑顔で』いうて、送り出してたみたいやね」 「そうらしいなあ。えらいなあ。こんな簡単なこと、忘れてたいうんか、気づかなんだいうんか、教えられたな…
虫は子供の喜びである。ぽつぽつ穴を開けた箱の中に、セイヨウサンザシの花の寝床を敷きつめ、コフキコガネやハナムグリを飼って楽しむ。 小鳥はまた、抗いがたい誘惑である。その巣や、卵や、黄色い嘴を開いて餌をねだる雛たち。 そんな虫や小鳥と同じくら…
「いつまで続くんやろ?」 「続くて、なにが?」 「日本と韓国、なんやかんやと、ややこしいやろ」 「わかるけど、考えたところでどーもならんやろ?」 「まあなあ。おれらジャコがない頭であれこれ考えても、どーもならんのはわかってるけど、テレビでこれ…
「昨日が大友柳太朗、おとといが志村の喬っちゃんやろ。面白かったなあ」 「大友柳太朗いうたら、スターやったもんね」 「ほんまやで。たいがい錦之助とか、千恵蔵右太右衛門なんかの次、準主役やったんやけど『鳳城の花嫁』では主役やったからな」 「おとー…
「びっくりしたなあ、もう」 「ふるー。いつの時代の人間や。おとーさんは」 「ママンも知ってるんやから、同時代の人間やいうことや」 「言わなんだらよかった」 「遅い遅い。日韓問題ではムンちゃんがわけのわからんこと言うて暑苦しいてややこしいなかで…
「子供のころの話やけど」 「なに?」 「じいさんがな」 「あの、写真の、お仏壇にあるあのおじいさん?」 「そうそう、あのじいさん」 「なんて?」 「じいさんが子供のころ、カッパと相撲取ってたらしい。川のそばに行くといてて、むこうから勝負仕掛けて…
「ええなあ、中谷一郎」 「えっ? なかや、なに?」 「中谷一郎、風車の弥七よ」 「ああ、あの人、中谷一郎いうんやね」 「そう、中谷一郎。雰囲気のあるええ役者さんや。あのおさむらいのちょんまげやない、あれなんて言うのかな、ヤクザもんの、人生の裏街…
からだぢゅう毒がまわっていい気持ち 言われても毒ほどうまいものはなし 十八度5℃に冷やして毒を飲む 毒とわかって飲むお酒 毒ほどうまいものはなし 「おとーさん、飲まれもせんのに、よーゆーなあ」 「『酒は百薬の長』とか言いますな。また反対に『命をけ…
「月形龍之介が出てたんもびっくりしたけど、志村喬が出てたんもいろいろ思うことがあっておもろかったな」 「なにが?」 「東野英治郎と志村喬な、『七人の侍』で一緒に出てはんねん」 「そやったかなあ?」 「気がつかへんかもしれんけど、出てんねん」 「…
「最近では佐野浅夫とか、昔、助さん役やった里見浩太朗の黄門さん観て思うんは、やっぱりシリーズ最初の頃の東野英冶郎の黄門さんが一番ええなあ」 「そうやね。簡単に『この紋所が』言わへんしな」 「そうそう、作りが単純になって、あれは脚本のせいやろ…
「ママン、教えて。また北朝鮮が2発撃ったやろ。ここ何日間で5発やで。どんな意味があるんやろ」 「わからん。おとーさんがわからんことわたしがわかるはずないやろ」 「そんなこともない思うけど。やっぱりわからんよなあ」 「まえにもよーけ撃ちはったん…