朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

桃太郎伝説異聞 サルとキジとイヌのその後

 テレビCMで桃太郎、金太郎、浦島太郎のトリオが大活躍中である。この中で金太郎だけが際立ったストーリー展開もなく、せいぜい相棒のクマと相撲とったりまたがって乗馬のまねごと程度のエピソードしかないのはなぜだろうと寝ぼけ頭で考えるのだが、その話はまたの機会にして今回はタイトルに沿って寝ぼけ頭を活性化したいと思う。

 

 鬼ヶ島から意気揚々、凱旋帰郷をいたしました桃太郎でございます。桃太郎をここまで立派に育て上げたおじいさんおばあさんの喜びようといったらもう、例えようがございません。

 もちろん、桃太郎に付き従って大活躍をいたしましたサルキジイヌのアニマルトリオも下にも置かぬ大歓待。しかしそれもしばらくのことで・・・

 

 桃太郎に最初に申し出たのはサルでございまして、故郷のお山に戻りたい、そう申し出たのでございます。

 桃太郎にとって渡りに船とはこのことでございましたが、その思いはおくびにも洩らしません。鬼ヶ島におけます計略策略の数々が桃太郎をいわば「大人」にしたというわけでございます。もう鬼ヶ島から宝物を召し取るという目的を果たした以上、正直言って桃太郎、この2匹と1羽の存在を煩わしく思っていた矢先のこと、しかし、いかにも名残惜しそうに

 「う~~~ん・・・そうかァァァァァァ、残念やなあァァ・・辛いのォォォォ・・・しゃあないなァーーーー」

 と涙さえ浮かべております。心の中では小躍りして手を叩きながら、でございますから引き留めることもなくというわけで。

 さてサルが去るのをひとり一匹一羽で見送ります。別れに際しての餞別代わりと申しますか、これはもうご存じのきび団子でございます。鬼退治の道すがら貰ったきび団子、見た目はあのときと寸分違わぬもの、ではございますが、違っているのは中に小豆を煮たあんこが詰まっているという、鬼の目にも涙、一寸の虫にも五分の魂、盗ッ人にも三分の理、桃太郎にもどこかやさしい気持ちもあるのでございます。

 

 サルの赤いお尻が段々と小さくなり、やがて消えてしまいます。ここで桃太郎、いかにも独り言を装いながらも一匹一羽に聞こえるような声で、しかも名残つきないといった顔色を作って

 「去るものは追わず、というからなあ」

 翌日のことでございます。

 今度はキジでございます。やはりサルの気持ち、望郷の念とでも申しましょうか、こういうことは不思議と伝染するもので、キジも山が恋しいと目に涙さえ浮かべて桃太郎に訴えます。

 生死を共にしたいわば戦友がひとり減り、そしてまた日を置かず今日もというわけですから、本来なら身を切られるような寂しさを憶えるのが普通一般の感情でしょうが桃太郎はそうは思いません。内心大喜び。

 この桃太郎の心の内はサルとの別れのときに申しましたので二度はもうしませんが、イヌと一緒に手を振ってキジとの別れを惜しみます。これでもう後は、イヌが「去ぬ」と言ってくれれば万々歳やなと思いながら。

 去って行く遠くから、振り返ったキジが利き腕ならぬ利き羽根をバタバタさせて「ケンケンケーン」と声を張り上げ最後の別れを告げたその時でございます。

 「ズドーン!」と鉄砲の音。

 羽根が何枚か舞ってキジがもんどり打って倒れます。起き上がる気配もございません。なにが起きたのか。

 すぐに駆け出したのはイヌでございます。本能と申しますか、習性と申しますか、その後に遅れて桃太郎も走り出します。想定外とはこのことで。

 年寄りの猟師がやってきて、先に着いたイヌがその猟師に向かって盛んに吠え立てています。そんなことにはもう馴れております猟師ですから、イヌの吠えるのも聞こえぬといった素振りで、死んでぐにゃりとなった首の辺りを持ち上げると、何事もなかったように去っていきます。

 そこへ息を切らして駆けつけた桃太郎、血の付いた羽毛がいくつかまるめた綿のように散っておりまして、中に混じって美しい尾羽が一本、日の光を受けて虹色に輝いております。イヌも悲しげな声を出しております。

 桃太郎が、「キジも鳴かずば撃たれまいに」とつぶやきます。

 

 さてさてそれから幾星霜。川の流れは絶えずして。雲の流れも同様に。平成も最後の御代となりにけり。

 

 所変わりましてこちらはニューヨーク。サザビーズの本部でございます。

 いましもオークションが始まろうとしております。今回は何か、大変に珍しい品物が出品されるのではないかと噂が噂を呼んで大勢のマニアが詰めかけております。

 

 さあ! 落札も滞りなく済んで、最後のオークションでございます。運ばれて参りました。ライフル銃を胸の前に掲げた八人の屈強な男がその周りを囲んでおります。

 厳重に封印された箱の中から品物が出されました。意外に小さい、何でしょう? 意外に小さい、果たして品物はなにか? まだわかりません。

 えッ? 部外者はここまで? 駄目!? 駄目? えッ? 駄目なの? 

 

 判明いたしました。美術品ではございません。なんと申しましょうか、骨董品と申し上げて起きましょう。二点でございます。

 イヌの首輪と鳥の羽? なんでしょうか? えッ? 桃太郎のお供で鬼退治に行ったイヌの首輪と、キジの尾羽、えッ? キジの羽根ですか? だそうです。これは珍しい、これは珍しい。これ以上申し上げようがございません。

 

 落札者ははっきりしませんが、噂では日本人とのことです。落札額は秘密とのことです。

 サザビーズ・ニューヨーク本部前からの中継を終わります。足柄山桃太郎でした。