勝新太郎の『影武者』
黒澤明監督作品『影武者』の製作発表があったとき、私は大いに期待した。主人公武田信玄役を勝新太郎が演るからである。
『影武者』の絵コンテを見たとき、武田信玄は明らかに勝新太郎をイメージしたものだった。少なくとも私はそう感じた。
ところがである。主役が仲代達矢に変わった。なにがあったのか。いろいろ見たり聞いたりしたが本当のことは分からない。
このごろになって想像するのだが、一度勝新太郎でイメージを膨らませた信玄像を完全に払拭して、新たに仲代達矢の信玄像を拵えるのは、監督にとって大変なエネルギーを要したのではないか。
勝新太郎でイメージしたものを、そっくり仲代達矢に演ってもらうなど、そんな単純なものではないと思うからである。
それにしてもと思う。「なんで、あんた役者やろ」と残念に思うのである。この作品を足がかりにハリウッドの可能性もあったんじゃないか、そう思う。
「監督はふたりいらない」。黒澤の弁である。
叶わぬ夢だが、今でも、観たかったなあと思う。