ナルボンヌコモリグモ
「ファーブルの『昆虫記』、読んだことある?」
「ない。昆虫て、気持ち悪い。あれ男の子の読むもんやろ?」
「まあまあ、子供に限らず、男のほうが多いかもしれんな」
「読んでんの?」
「ナルボンヌコモリグモいうクモがおんねんけど、背中にな、産んだ子グモを乗せて育てるそうや」
「何匹くらい産むんやろ?」
「何匹て、一匹二匹やないで。何百匹単位やろな。マカロンいう洋菓子があるやろ。あれをちっちゃくちっちゃくした形の袋に卵を産んで、お尻から出した糸で自分の身体から離れんようにして、どこ行くにもそれおなかに抱いて育てるらしい」
「ふーん、それも大変やな。それで卵から孵化したらどーなんの?」
「孵化した子グモはその袋から出てくるんやけど、その前のまだ卵のとき、親グモは土の中に巣を作ってるんやけどその出口のところにいて、お日ィさんがそこに当たってきたらその日当たりのええとこに卵の入った袋を後ろ脚で持ち上げてクルクル回すんやて」
「へえー、どういう意味やろ?」
「中の卵にまんべんなくお日ィさんが当たって、孵化を助けるんやろ。ニワトリなんかが卵を抱いて温めるやろ? あれとおんなじ意味らしいわ」
「へえー、賢いというか、どないしてそんなこと覚えるんやろなあ?」
「どないして覚えるんやろなあ? 教えてもらうわけでもないやろからなあ」
「本能ゆうんやろなあ。考えられへんわ」
「ファーブルもそう書いてる」
「生まれたての赤ちゃん、なにを食べて生きてるんやろ? ヒヨコなんかもピヨピヨ親のあと追うてエサつっついてるやろ?」
「それがな、なんも食ってないらしいねや。なにかで栄養とらんと飢え死にすると思うんやけど、そこんところがファーブル先生もわからんかったみたいや」
「どないして親の背中に乗るん? 何百匹もおるんやったら、えらいことやで」
「それがな、すごいねや。生まれたての子グモがぞろぞろぞろぞろ、親の脚を伝うて、背中に登るいうんやから、見たら感動するやろな」
「そこがわからん言うんやおとーさん。そんなん気持ち悪うて、よう見んわ」
「おれもママンがそう思うんがわからん。まだ続きあんねんけど、聞く?」
「ええわ。もう韓ドラ始まってるから、やめとくわ」