玉手箱
4日に1度のサイクルで朝5時30分からの仕事をしている。そのため、前日の就寝前、枕元に目覚まし時計と電気スタンド用意している。歳のせいもあるが、もともと早起きは苦にならない。目覚まし時計は用心のためである。
目覚めたのは4時半ごろだった。起きるにはまだ20分ほど余裕がある。
電気スタンドの明かりを消して目をつむり、そのまま横になっていると玉手箱が頭に浮かんだ。あの浦島太郎が竜宮城から小脇に抱えて持ち帰ったという例のものである。
落語噺で、なんの題だったか思い出せないけど、品良く言えば骨董品、普通に言えばガラクタということになるのであろうが、「武蔵坊弁慶のしゃれこうべ」というのが他の骨董品に混じって並べられている。
客がそれを手に取ってためつすがめつ眺めたあとにひとこと、「弁慶の頭蓋骨にしては少々小さいように思うが」
「へえ、弁慶の幼少のころのもので」
私はこの話が大好きで、落語になりそうな話をでっち上げるのを楽しみにしている。
玉手箱に話を戻そう。
5時10分前になったので、ミノムシのようにくるまっていた布団から抜け出しながら、横の布団でミノムシのままの妻に言った。
「テレビで観たんやけど、玉手箱、あの浦島太郎が竜宮城で乙姫様にもらったというあの玉手箱な、あれ、骨董品で出てきたらしいで」
「えッ! ホンマ!」
驚いたのは私のほうである。「アホなこと言いな」というのが私が想像していた返事だったからである。まさか本気で信じられるとは、想定外もいいところである。
「アホなこと言いな」だったら、「いや、ほんまの話らしい」ともう一押しできるはずだったのだが、「えッ! ほんま!」があんまり真剣だったので、こっちもつい「冗談、冗談や」と言ってしまった。
話のピンポンがうまく繋がれば、金太郎の「マサカリ」も骨董品として出すつもりだったのだが。