活動写真
子供の頃、私の田舎では、まだ映画とは言わず、活動写真と言っていました。正確に言えば「カッドー」か「カッドーシャシン」となります。町には二つの映画館がありました。ひとつは私の住む町の名前のついた「甲佐館」、もうひとつは「緑館」という名前でした。
甲佐館がいつごろ出来たのか、今ではもう知る由もありませんが、私の目に世間が写り始めたころにはすでに存在していました。緑館が建ったのは後のことで、私が小学校へ上がる前後のころではなかったかと思います。
私の記憶に残る「カッドーシャシン」初体験は甲佐館でした。祖父が建てた家が駅前にあって、その駅(甲佐駅)の駅員さんに連れていってもらったのです。
当時は映画の前にニュース映像がスクリーンに映し出されていました。モノクロ映像で、初めに画面の真ん中で頭部だけのライオンのが「ガウ、ガウ」と威嚇するように吠え、そのあとから政治やスポーツなどのニュースが始まります。後になってのことですが、メトロゴールドウインカンパニーという名前を覚えました。
甲佐館は洋画もやっていました。西部劇やターザン映画が好きで、ランドルフ・スコットやゲーリー・クーパー、ターザン役ではレックス・パーカーという名前が記憶に残っています。カラーという言葉がまだ一般的ではなかったのか、ポスターの上部に、「総天然色」の文字がありました。
駅員さんに連れて行ってもらったときの私の記憶の続きは、私が急に泣き出し、そのせいで駅員さんは映画を観ることもできず私を連れて帰るという、今思えば気の毒なことをしました。映画が始まるとき館内の明かりが消されたのに不安を覚えたのかもしれません。
甲佐町にいまは、映画館はなくなってしまいました。