昆虫大好き・ハイイロチョッキリ
「おとーさん、昆虫好きやろ」
「好きやな。子供のころは、友達みたいなもんやからな。昆虫で思い出したけど、このまえ『嵐』の二宮クンがビビって、カブトムシようさわらんかったのは笑うたな。おれかてヘビとかトカゲはあかんけど」
「ハハハ、笑たねあれは。おとーさんが仕事行ってるあいだに昆虫、テレビでやってたよ。ドングリに穴開けて、そこに卵産む虫。鼻の長い、ぞうむしの仲間とか言うてたけど」
「観たかったな。なんとかチョッキリいう虫や。『ファーブル昆虫記』にもたしか、書いてあったように思うけどな」
「卵産んだあとにその枝切り落とすんも『へえ』思たけど、あれ、なんであんなことするんやろ。おとーさん知ってるか」
「なんでやろ。ドングリが青いままやったら、卵が幼虫に孵ったときエサにならんからと違うかな」
「中の実がエサになるの」
「そうやろ。冬のあいだあの中でドングリの実を食うて、春になったら親の姿になって出てくるんとちゃうかな」
「ドングリに卵産むんはまだわかるわ、あのクリにも虫食いがあるやろ、けど枝を切り落とすいうんは、えらいよなあ。どこにあんな知恵があるんやろ、あんな小さい虫に」
「わからんなあ。けどな、わからんときにはなんでも効く、万能薬があんねん」
「万能薬てなに?」
「本能や。わからんことはこれで一応カタがつくからな。人間から見たらえらい知恵があるように思うけど、虫が人間とおんなじように考えて出した知恵ではない、ちゅうこっちゃ」
「そういうこと? それで本能や、いうねんな」