クスリ指の由来
「ねえねえお母さん、わたしなんでクスリ指なん?」
「そやねえ、お母さんよりお父さん知ってると思う。訊いてごらん」
「もう訊いた。おやじギャグ言うて、ひとり笑うてた」
「お父さんらしいな。なんて言うてた?」
「『なんやおまえそんなことも知らんのか。そんなことやっららチコちゃんにしかられるで』言うてな、『それはなクスリ指、おまえは笑うときハハハと笑わんと、下向いて『クスリ』と笑うやろ。そやからクスリ指言うんや』言うて、ひとりでハハハ笑うて行ってもうた」
「あの人らしいな。なんでいつもみたいに笑うてやらんかったん」
「わたしかてしんどいときある」
「ただいまー」
「噂をすればやな。帰ってきた」
「ママン、ただいま」
「お帰り。早かったね」
「ママンの顔、早う見とうてな、急いで帰ってきたハハハ」
「そらありがと。歳やさかい転けたら寝たきりやで。クスリ指が訊きたいことあるんやて。まじめに教えたってや」
「そうか。なんやクスリ指、なんでも教えたるで。知らんことなにもないからな、ハハハ」
「お父さん、そのハハハやめてくれる。訊く気なくなんねん」
「ぎっちょー、わかりました。以後注意いたします」
「なに、そのぎっちょー言うの?」
「わからんか? 左手あげたやろ。そやさかいぎっちょーや、ハハハ」
「訊くのやめるわ」
「ごめんごめん、クスリ指。まじめに教えたろ。なんや?」
「もーお父さん、あほなことばっかり言うて。クスリ指まだ子供なんやで。ふざけんとまじめに教えてやらんと」
「リーン、リーン」
「あ、ママン電話や。えッ? 前田さん?・・・はあはあ、うん、行ったけど前田さんいてなかったんで帰ってきたんや。えッ? 阪神のほうかいな。阪急のほうか思てたんや。はんしんはんぎでごめんな。あッ! 待って待って、そない怒りいな、知ってるやろ。いまもママンに怒られたとこや。ごめんごめん。うん。いつもの、うん喫茶店におるの? うん、すぐ行く」
「ママン、ちょっと出掛けてくるわ。阪神のほうやったんやて。ケータイないからな」
「クスリ指のこと、どないすんの?」
「ああ、帰ったら、いやいや、クスリ指スマホ持ってるやろ。それで調べといて。ほんまのこというて、クスリ指の由来、おれ知らへんねん」