漫才「乞うご期待」
「肉で勝負しよか、思てるんやけどね」
「どォお?」
「そやさかい、肉で勝負・・・」
「わかってるわい! けったいなこと言うな」
「なにもけったいなこと言うてないがな」
「肉で勝負てキミね、頭で勝負したことあるか。いつも身体使うて仕事してきたやないか」
「ハハハ、なんや肉いうんはボクの身体のことかいな。そらキミの勘違い。ボクの身体のことやのうて、動物で勝負するいう話や」
「可哀想になあ、ウシやウマ使うて田んぼでも耕すつもりか! 動物虐待で捕まるぞ」
「勘違いもええ加減にせえ! ボクが言うてんのはステーキの店やろか、そう思てるいう話や」
「アカン、やめとき。ステーキの店なんぼでもある。そないに甘いもんやないぞ」
「わかってる。ギュウのステーキやのうて、ほかの肉でやろか、考えてるんや」
「なんの肉?」
「ウマと」
「ウマ? ウマ!? 馬サシは知ってるけど、ウマのステーキなんか聞いたことない。これもアカン」
「ボク、言うてる途中やがな。ウマだけやない、シカの肉も使う計画や」
「ハハハハ、ウマとシカ、キミのことやがな」
「言われてもしゃあない。覚悟の上や」
「キミ、どないなこと考えてる。言うてみいな。ハハハハ」
「言うたらまた笑うやろ」
「先に笑てるわ」
「ハハハ、ええ加減にせえ」
「冗談や。キミ言うてみィ」
「焼くのはギュウのステーキと一緒や。鉄板で馬肉と鹿肉と焼くやろ」
「それで? それだけかい?」
「最後まで黙って訊けんか。そこでちょっと工夫したんは、フォアグラや」
「なんやキミ、そのなんとかグラいうんは? バイアグラと似たようなやつか?」
「くだらんこと言いな! キモや肝。魚でいうたらフグの肝とかアンコウの肝とか、あのトロッとしてうまいやつがあるやろ」
「あれ、ボク嫌い! なんぼカネもろても、食わんぞ!」
「なにもキミに食うてもらお思てない。心配すな。それも焼いて馬肉と鹿肉のあいだにサンドして」
「真っ黒焦げになるやないか。売りもんになるか?」
「なんの話や?」
「三度も焼いたら、焦げてだれも食わん、言うてるんや」
「わけのわからんこと、言いな。サンドいうんは肉と肉のあいだに挟むいう意味や。だれが黒焦げになったやつ食べるねん」
「そやさかい言うてんねん」
「もうええ!」
「けど、ニッポン人に受けるやろか?」
「それも考えてる」
「どォお?」
「いま外国人、ニッポンにようけ来てるやろ。インなんとか言うやろ」
「インバウンドか」
「そう、それそれ。そこに狙いをつけてな」
「そら、オモロそやないか。けど宣伝もせんとな。売れるまで時間かかるで」
「それも考えてる。テレビでの宣伝、アベちゃんにやってもらお思てる」
「アベちゃんて、あのアベちゃんか? チョウとかトンボとか追っかけてる3年生の」
「アホぬかせ! あの子にやってもろてなんの宣伝や。総理大臣のアベちゃんや」
「えらいキミ、親しそうに言うやないか。親戚でもないやろに」
「親戚ではないけど、ボク、山口県の出身やからな」
「おかしなこと言いな。子供のころから鞍馬天狗と近藤勇、一緒にやってたやないか」
「わかってるわかってる。山口や言うてたほうがアベちゃんに宣伝頼みやすい。山口県いうたらアベちゃんの地元やからな」
「聞いてくれるやろか?」
「それも考えてる。商売相手は外国人や。いまニッポン、外国人に来てもらうんにチカラ入れてるやろ。それを言うたらイッパツや。もひとつ、テレビにはダンミツにも出てもろうて、アベちゃんと共演してもらおう思てる」
「ボクも出たい! なんとかしてくれ」
「ハハハ、そらでけんな」
「これだけ頼んでもか。あのときの10円返せ!」
「わかったわかった。むこうがウン言うたら出てもらう」
「10円、返さいでもええわ」
「現金なやっちゃな」
「ダンミツ、ボクに惚れたらどないしょ」
「ええ加減にせえ! ステーキの名前もな、考えてるんや」
「ステーキに名前あんのかい」
「ああ、そのほうがわかりやすいやろ」
「どォお?」
「ウマとシカやろ。『いや~ん、ばかァ~んステーキ』これでいこ思てる。最初にアベちゃんに食べてもろて『森羅万象、悪夢のようにうまい!』言うてもらうやろ、そのあとダンミツに『いや~ん、ばかァ~んステーキ』言うてもらうつもりや」
「ハハハ、おもろいやないか。キミとしたらよう考えたな」
「そやろ。キミに言うまえに、スガやんやタロやんにも訊いてみたんや」
「ああ、同級生でずっと仲良しやからな。で、なんて言うてた」
「スガやんは風邪ひいて家で寝てた」
「風邪引いて寝てた? 布団ひいて寝んかい」
「そらええねん。他のネタで使うやつや」
「子供の頃から年中風邪引いてたからな。腸も弱かったんで、『感冒腸管』いうあだ名やったな。けど、頭はよかったな」
「ウン、頼むんはかまへんけど、学校の話はすな、言うてた。なんでや訊いたら、黙ってた。キミ、わかるか?」
「わからんな。で、タロやんは?」
「あいつわけのわからんやつやで。『売れるやろか?』訊いたら、『それがわかりゃ苦労はしねえ』言いよんねん、笑てもうた」
「ほんまか。あいつ2年生のときやったな、福岡からこっちィ転校してきたときはベタベタの福岡弁でなに言うてんのかわからなんだけど、おとなになってから、急にべらんめえ調になるやろ。笑てまうな。で、どこまで進んでるんや、計画?」
「8分から9分や。乞うご期待、いうとこやな」
「じゃあ、来月にも開店やな」
「そこまではまだ無理や」
「どォお?」
「いまワナ作ってるとこや」
「ワナ? なんのワナや?」
「ウマとシカ、捕まえるワナや」
「そんな馬鹿な!」