つと川の銀ちゃん
「おとーさん、あれ?」
「なに?」
「コイと違う?」
「どれどれ」
「あれ、あそこにおるやろ?」
「んー、ボラやな」
「ボラか」
「ボラや」
「コイ、死んでもうたな」
「死んでもうた」
「ひどいことするな」
「ほんまや、あきれるわ」
「上流で、間違うて、薬品流したんやろ」
「そない言うてた」
「全滅や。弁償してもらわんとあかんで」
「ほんまや、あきれるわ」
「銀ちゃんも死んだんやろな。黒いのも、赤白まだらも、緋ゴイもおったけどな」
「全滅やったからな」
「洪水の後でも、平気やったけどな」
「あのとき、どこ隠れてるんやろ? どっかでじっとしてるんやろ」
「なあ、流されもせんで」
「ナマズもスッポンも、陰も形ものうなったな」
「死の川や。弁償せーちゅうねや。あきれるわ」
「ほんまやで。このまえ覗いたら、ウナギがおったわ」
「生きてるやつ?」
「いや、川底でヒモみたいに引っかかってた。2匹な」
「ウナギもおったんや」
「生きてるの、見たことなかったけどな」