見上げてごらん
「おじいさん、そこでなにしてんの?」
「星をな、観てんねや」
「見えるか?」
「あんまり観えんな」
「お月さん出てたら、見えにくいよ」
「お月さんは出てないけど、目ェ悪うなったんかな」
「いつまでもそこおったら風邪ひくよ。なか入ったら」
「昔は、こんなんやなかったけどな」
「昔て、いつのことよ?」
「聖徳太子さんが、ご活躍されてたころの話や」
「聖徳太子さんてあんた、大昔の人やで。おじいさんが生きてたわけないやろ」
「当たり前や、そのころから生きてたら、化けもんやがな」
「けどあんた? 言うたやないの」
「ああ、言うたよ」
「意味わからんわ」
「ハハハハ、おれが言うたんはな、お札の1万円が今と違うて聖徳太子さんやったやろ。それでや」
「あきれるわ」
「けどほんまに、おほっさんの数少のうなったな。子供の頃は空いっぱい、ぎっしり詰まってて、ぶつかり合うて、音がしそうやったけどな」
「ほんまに。天ノ川いうんもはっきり見えてたん、憶えてるわ」
「天ノ川も、水がのうなって、干上がってもうたんかいな」
「おじいさん、またボケたこと言うて、あそこには水なんかないねんで」
「そうかあ、水がのうても、向こうみずというが如し、やな」
「あきれるわ。テレビで言うてたけど、おほっさんの数なんぼくらいあると思う?」
「さっき数えたけど、とおもなかったで」
「とおもなかったってあんた、昔はぎっしり詰まってた、言うたやないの」
「ああ、昔はな。けど今は、数えるほどしかあらへん」
「あんねんて、テレビで言うてたよ」
「あんたテレビテレビ言うけど、あんまり信用せんほうがええで」
「なんで?」
「片方で『オレオレ詐欺にはご注意を』言いながら、もう一方では、『テレビ局です』言いながら、家んなか平気で上がり込んでくるやろ」
「今はそんなこともないやろ」
「わからんで。けどなんで犯人のことを『ホシ』言うんやろ?」
「おじいさんあんた、完全にボケたな」
「いやいや、そやないねや。あんたさっきわたしに訊いたやろ?」
「なんの話やったかいな?」
「おれには言われんで。空におほっさんどれくらいあるか? いう話や」
「ああ、そやった。なんぼくらいあると思う?」
「想像つかへん」
「いっせん億以上、あんねんて」
「1千億! だれか暇人が数えたんやな。数えてるあいだに死んでしまうで」
「ひとりで数えるわけではないやろ」
「そらそうやろけど。数えられるのは夜だけやで。それも晴れてないとあかんやろ?」
「わたしに訊かれても、知らんがな」
「どこへ行ってもうたんや? 見上げてごらん。あっちひとつ、こっち見てひとつ、絶滅危惧種、レッドカードやで」
「心配せんかて、大丈夫や」
「そやろか?」
「そうや」