づつきる~ぺ
「めがね、あるやろ?」
「あずかってないよ?」
「いや、おれのめがねやないねん」
「なんのこと?」
「CMや、コマーシャル」
「なんの?」
「めがねの。あれ、えらい売れてるらしいな」
「ほんま?」
「らしい。シリーズ4作目の新しいやつ、見た?」
「どんなん?」
「葬式のやつ」
「それ、見てない」
「祭壇にやさしそうな顔のおじいさんの写真が飾ってあって」
「はあ」
「その顔がアップになって、めがねかけてはんねんけど、あれ、なんちゅう名前のめがねやったかいな?」
「なんやったかなあ・・・あれ、なんとかいう俳優がコマーシャルやってたやろ」
「そうそう、それそれ。シリーズの最初のがカラテの男が出てきて30枚ほど重ねたかわらの上にそのめがねを乗せて頭突きする、そうそう分かった、めがねの名前、づつきるーぺや」
「そうそう、それ、づつきる~ぺ」
「30枚のかわらきれ~に割れるのに、めがねだけはなんともない」
「笑うやろ」
「笑う。シリーズ2作目、憶えてるか?」
「どんなんやった?」
「ほら、プロレスラーがふたり出てきて、ふたりとも、頭のおでこのとこにあのめがね貼り付けて、なんべんもづつきし合うて、両方ともマットで伸びてまうんやけど、レフェリーがカウントして、その挙げた手にあのめがねがあるというやつ」
「それそれ、それやそれや。笑うやろ」
「笑う」
「次のやつが傑作やったな」
「自動車やろ?」
「そや、自動車。それも、ヒノの2トンやのうて大型トラック2台、フロントバンパーにあれ貼り付けて正面衝突、トラック大破でグチャグチャ、下に落ちてるめがねはなんともない」
「ハハハハ。思い出すだけでおかしい。あきれるな」
「今度のやつはそれ以上やで」
「どんなん?」
「おじいさんが死ぬんや。愛用のめがねやったんで持っていってもらおういうんで、棺桶のなかにそっと入れるんや。場面が替わって焼き場になるんやけど、みんなが見守るなか、なんともなってないめがねが、骨に混じって出てくるんやけど、こんなケッサクCM、初めてやで」
「そう。そうなん。どこまで行くんやろ?」
「よう考えるわ」
「ほんまに。よう考える」