鯉とりまーしゃんの話
「ママン、『鯉とりまーしゃん』て、知ってるか?」
「なに?」
「鯉とりまーしゃん」
「だから、なんなん? きゅーに言われても、わからんわ」
「そやな、きゅーに言うてもわからんわな」
「人のことなん? だれのこと?」
「うん、もういまは死んでおらん人やけどな。名前が上村政雄、まーしゃんや」
「おとーさんが知った人?」
「いや、知らん。知らん人やけどな。初めて知ったんは開高ケンの本からや」
「へえー? どんな人なん?」
「ひとことで言うたらな、鯉とりの名人やねん、川ザカナの鯉のな」
「どないして鯉、とるの?」
「もぐるやろ川に。福岡に、筑後川いう川があるんやけどな、なにも持たんとやで。水中メガネはしてるけどな。それで、川底におる鯉を、そーッと近寄って、素手で捕まえて上がってくる、いう名人や」
「そんな人、おるかァ、おるわけないやろ。鯉かて、逃げるやろ」
「そこが名人なんやな。『カッパのまーしゃん』言われてるからな」
「へえー、そうなん。捕るとこ見てみたいな」
「もう今は死んだ人やから、見たいいうても、見られんけどな」
「見てみたいなあ、捕るとこ」
「おれもな、だいぶ前の話やけど、開高ケンの書いたやつ思い出してパソコンで調べてみたんや。そしたら載っててな。それも記録した映像がユーチューブで観れたんや」
「へえー、いまも観れるんやろか? おとーさん、やってみてパソコン。あるかもわからんよいまも、観てみたいな」
「やってみよか?」
「うん、やってみて!」