思い出の京マチ子
「95歳やったんやね」
「だれ?」
「京マチ子」
「ああ、亡くならはったな。2、3日前やったかな『徹子の部屋』に岸惠子出てたんやけど、戦後からこっち、スターというてええ女優さんで生きてはるんはこの人くらいかな思てたけど、調べて見るとほかのもいてはるんやなあ」
「何人ぐらいいてはる?」
「うん。コマーシャルでも観るやろ、山本富士子」
「ああ、ほんまやね。いつまでも、きれーなあ」
「なあ、いくつやと思う?」
「わたしらより、トオくらい上かな」
「1931年の生まれやから、おれが1945年、ママンが46年やろ。ということはおれより14、ママンより15歳上いうことやな」
「ということは、山本富士子、何歳いうこと?」
「おれの歳に14足すわけやから、88やな」
「88歳! ちがうなあ女優さんは。化粧品もええの使うてはるやろからな、何万円いうの使うてはるんやろ、知らんけど」
「買うたろか?」
「ハハハハ、頼むわ」
「ほかにも、八千草薫が山本富士子と同い年、岸惠子がひとつ歳下の87歳、京マチ子は1924年生まれやから岸惠子より八つも歳上いうことになるな」
「すごいねえ。あそこが痛い、ここが悪いなんて言うてられへんな」
「そやで。ママンだけが頼りやさかい、長生きしてや」
「あかんわ。ヒザが痛うてな、あんまり歩かれへん」
「なんじゃそら。いま言うたばっかりやないか」
「おとーさんかてなんやのん。自分のことタナに上げて。もっともっと働いてもらわな食べていかれん」
「なあ、女優さんみてもわかるとおり、オンナの人が長生きできるよーになってんねん。オトコの役者さんで残ってるんは仲代達矢だけやで。岸惠子と同い年や。そういえばゆうべテレビ出てたな、マカロニウエスタン、何歳やったんやろ?」
「あれ、前にも観たやろ?」
「観た観た」
「中村玉緒のおとーさんて、知ってるか?」
「顔見たらわかる思うけど、名前は知らん」
「中村鴈治郎いうんやけどな。もともと歌舞伎の人やけど、映画にもよーでてはってな、『浮き草』いう映画で旅芸人の座長役やってるんやけど、その相手役が京マチ子でや。ケンカすんねん。まあ痴話ゲンカいうやつやろけど、雨の中道路の向こうとこっちに別れて雨宿りしながらの口ゲンカ。なあ、思い出すな」
「おとーさん若い頃映画よー観てたからな」
「いまは観たい映画がのうなったな」
「しゃーないな」
「しゃーない」