朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

落語『蜘蛛の糸』-9

 さて、ここで少しばかり時間を頂戴いたしまして、地獄における鬼についてほんの少し、お話をさせて戴きます。地獄の鬼については、皆様、だけではなく自分だっていつかはそちらのほうへ、まあ冷たいようですが、必ず旅立たれるわけで、ちょっとした予備知識だけでご存じのほうがもいくらか気休めになるのではないか、そう思うわけでございまして。

 地獄では大勢の鬼が働いております。これはわたしども人間の世界とまったく同様で老若男女、赤ん坊からおじいさんおばあさんまで、その姿格好はと申しますと、これはもうお客様もよくご存じの、子供のころご覧になったと思いますがあの絵本に出てくる鬼、あのイメージを思い浮かべて戴けましたらけっこうなのでございます。

 ゲジゲジ眉毛に、ギョロリと剥いた大きな目玉、顔の真ん中、総面積のほぼ3分に1を占めておりますのがデンとあぐらをかいた獅子鼻でございます。分厚いくちびる、耳まで裂けるかという大きな口の両端、上と下にはドリルのような、岩でも噛み砕くかという牙が合わせて4本。金髪もあれば黒髪もある、赤、グリーン、ブルー、イエローなどなど、サイケデリックな髪の毛の色はこの世よりずっと進んでおります。これが実は地毛という。パープル、紫色ですな、これはおばあさん鬼にはとくに流行してるそうで、わざわざ脱色して染めてるおばあさん鬼もおるんやそうでございます。

 そのもじゃもじゃ頭にはご存じの通りニョッキリと角が生えております。1本もあれば2本もある。3本角恐竜のトリケラトプス、このような3本角の鬼もおるにはおりますが、いまはもう絶滅危惧種、大変に貴重な種やそうで、その原因はまだ解明されておらず、「3本角の謎を解く」研究所というのもあるやとのこと、最近はつけ爪ならぬつけ角が3本角が流行のきざしをみせているとの噂もございます。

 全身は裸で、腰にはトラの皮のパンツを穿いております。これは男鬼も女鬼もおんなじで、子供鬼は時々穿くのを嫌がり、母鬼と鬼ごっこをしております。

 若い男鬼は昼間は閻魔の庁で働いております。この地獄の世界ではすべてがれっきとした公務員で生活は安定しておりますが、あの世、と申しますのはわたしどもの住むこの世のことで、あの世からみればこの世はあの世になるわけで、そういう意味でのあの世なのですが、あの世は医学の進歩等によって過去には例がないほどの高齢化社会となって地獄に送られてくる亡者も少なく、閻魔大王にとっても頭の痛い問題になっておるという噂でございます。

 角の話をもうひとつ付け加えますと、女鬼にも角は生えております。しかし外出のときなどはインドのターバンに似た、布製のものでくるくる巻いて角を隠すという、女鬼にとってのたしなみとなっておるのでございます。「角隠し」と呼ばれておりまして、「そのままやないか!」とお叱りを受けそうですが、ところが、最近になって、「ウーマンリブ」とか申しますものが流行の兆しを見せ、特に若い十代のギャル鬼と称される女鬼のなかには「それがなんやねん!」という態度で堂々と男鬼に混じって、一層角をみせびらかすように、角のまわりをクリスマスツリーのように飾り立てるギャル鬼も出現して、イケメンの男鬼に秋波・・・どうもつい年齢が出てしまいましたが、いまの若い方はご存じないと思いますが、色目を使う・・これも古いですな。どういうんですかないまの言葉で、こんなギャル鬼のことを「肉食系」と言うんやそうで。

 ところが、女心というものはわからないもので、これまでは男鬼とおなじように身につけているものといえば腰のパンツだけだった女鬼が、何を思ったか急におっぱいを隠すようになりまして、これを「ブラジャー」と名づけて大流行、ところがこれもトラの皮ですから乱獲につぐ乱獲、原産地の「地獄インド」でもとうとうトラは絶命危惧種に認定され、閻魔の庁の命令で捕獲禁止になったのでございます。

 ところが女の欲というのはすごいもので、これは西の方角から流行りだしたのでございますが、「トラが駄目ならヒョウがある」とばかり、いまやギャル鬼はおろかおばちゃん鬼、おばあさん鬼までがヒョウ柄の毛皮を着用しておるのやそうでございます。(つづく)