朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

落語『蜘蛛の糸』-25

 龍之介カッパから龍之介が離脱いたしまして、正真正銘100パーセントのカッパとなりましたその時の最初の行動はと申しますと、横たわっていた大蛇ヶ淵の川底を水掻きのついた両足で思いっきり蹴ります。と一気に水面へと浮上、勢い余って5メートルほど水面から飛び出したのでございます。再び水中へと落ちる際には「後方伸身宙返りムーンサルト5回」を決め、白井健三の持つ記録「シライ」を超えたのでございます。余談ながら、これはまだ記録として登録はされておりません。

 さらに、約50メートルほどある川幅の向こう岸へさして抜き手も鮮やかなクロール泳法で泳ぎ始めたのでございます。その速いことといったら、水中から身体が浮くというほどで人間の及ぶところではございません。手足の水掻きが威力を発揮いたします。

 そのあとのカッパの喜びようを掻い摘まんでご説明いたしますと、向こう岸からこちらの岸を往復38度、平泳ぎも同じく38度、またバタフライで大蛇ヶ淵から上流へ向かって、また下流へ向かってと円を描きながら64周、カッパ64でございます。

 カッパの喜びようはこれだけではございませんで、つい最前、赤鬼赤兵衛によって投げ込まれた大岩の上に飛び乗って、以前夏休みに子供達がやったように「イヤッホー!」と奇声を発し飛び込むことカッパ64回、岩の上に飛び乗っては飛び込みを繰り返したのでございます。

 これでやっとひとまず得心がいったのか、満足そうな顔を水面から出しますと、すぐにまた身体をくるりと宙返りして水中深く川底へと向かったのでございます。そして、川底の大岩の下を穿つ迷路のような洞窟へと消えていったのでございます。

 赤鬼赤兵衛によって、まだ龍之介カッパだった現カッパが大蛇ヶ淵へ向かって投げ込まれて時のことを思い出しますと、意識朦朧とした状態で、川底の大岩の下がどんな構造になっているのか知るよしもなかったのですが、そこが霊力を持つ水棲動物のカンの鋭さとでも言うのでしょうか、この一帯を泳ぎ回っているあいだに、水の流れの微妙な変化を頭のてっぺんにある皿のセンサーによって、感じ取ったのでございます。

 なにかに導かれるように大岩の下に潜って行きましたカッパは、なぜかこの空間が、もう長いこと棲み慣れた場所のような居心地のよさを感じたのでございます。そして、この大蛇ヶ淵の大岩の下を永住の棲家に決めたとき、これまで一度も経験したことのない不思議な感覚、将来に対する漠然とした不安が頭の上に載っている皿センサーによって感じられたのでございます。

 しかしそれも一瞬のことで、すぐに忘れ、身も心もリラックスする安堵感がカッパの全身を包み込み、睡眠薬ではない、真の深い眠りに落ちていったのでございます(つづく)