朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

落語『蜘蛛の糸』-22

 さて、睡眠薬のせいで一向に眠りから醒めぬ芥川龍之介カッパに噺を戻しますと、今以て昏睡状態が続いております。閻魔大王のお裁きの場から始まって現在只今まで、龍之介カッパは眠りから覚める気配がございません。閻魔大王に命じられて番卒鬼白鬼Cは三途の川で水に慣れさせようとあれこれ試みたのでございますが、まったくの効果ゼロ。これではお釈迦様への返答が遅れるばかりと閻魔大王、大王お付きのメズ(馬頭)のヒン次郎を三途の川まで使わし矢の催促。これでは白鬼C、立つ瀬がございません。

 龍之介カッパについて、もともとのスケジュールをここで再度確認いたしますが、三途の川の水によって目覚めた龍之介カッパを現世へ戻し、しばらく「大蛇ヶ淵」で睡眠薬による後遺症のリハビリの日々を送ったあとに再び地獄へ連れ戻し、カッパから芥川龍之介という人間へ変身させて、龍之介にお釈迦様のお尋ねになりたい件を、つまり、龍之介が書いた『蜘蛛の糸』の主役の登場人物である「カンダタ」をお釈迦様がなぜ地獄から救ってやろうとお考えになったのか? それを芥川龍之介から訊く、というのが閻魔大王のもってまわった、ややこしい作戦なのでございます。

 ところが、そうはうまくいかないのが世の常、この世あの世の区別はございません。いつまでたっても目を覚まさない龍之介カッパ、とうとう、我慢にも限界があるとばかり閻魔大王はお付きのメズのヒン次郎に龍之介カッパを現世へ戻すよう、命じられたのでございます。すぐに龍之介カッパ付きの白鬼Cにその命令が伝えられ、白鬼Cに代わって黒白まだらの番卒鬼、ホルスタインが龍之介カッパを背負って現世へと旅立つこととなったのでございます。白鬼Cの出番はこれで終わり、白黒のまだら鬼、ホルスタインにとってかわります。

 さてここは大蛇ヶ淵の岩の上でございます。龍之介カッパを背にホルスタインが立っております。龍之介カッパはまだ目覚める様子はございません。

 ところがまだら鬼のホルスタイン、どう閻魔大王の命令を聞いてここへきたのか、背中の龍之介カッパを岩の上からザッブーン! と投げ込んだのでございます。するとこれまた不思議と申しますか想定外と申しますか、はたまたここ緑川の水が龍之介カッパの肌にあったのか、ザッブーン! という音とともに息を吹き返したのでございます。

 あわてたのは龍之介カッパでございます。これまでの長いあいだ睡眠薬によって眠り続けていたことなどすっかり忘れ、また、眠っているあいだに自分がカッパに変身させられていたことなど思いもよらぬことで、また、自分が自殺のため睡眠薬を服んだことなどすっかり忘れていることなども重なって、姿はカッパのままですがアップアップと浮いてり沈んだり流されていくではありませんか。

 あわてたのはまだら鬼のホルスタインとておなじことで、といって水泳の経験はまったくございません。カッパの川流れと、このまま流されていったらまだら鬼のホルスタイン、もう地獄に帰ることもできません。岩のすぐ上は崖に生えている手頃な樫の木を一本引き抜きまして龍之介カッパを助けたのでございます。

 濡れネズミならぬ濡れガッパになった龍之介カッパとまだら鬼のホルスタイン、しっかりとハグをして喜びを表しております。

 そこへまた突然現れてのが、閻魔大王のすぐ側で仕える赤鬼の赤兵衛、なぜ赤兵衛がここはやってきたのか? 23回へと続きます。