朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

落語『蜘蛛の糸』ー31

 というようなわけでカンダタ閻魔大王の前に召し出されたのでございます。

「これその方、カンダタに相違ないか?」

「はい、カンダタでございます。相違ございません。それがなにか?」

「それがなにか? ・・・それがなにか、とは、なな、なんやねん? ンンン・・質問だけに答えるように、注意いたせ」

「・・・・・・」

「その方たしか、亡者となって来たときに、ワシの前で舌を抜かれたと思うが、なぜじゃ? どうして話せるのか?」

「はい、じつは三年ほど前から徐々に生えてまいりました」

「そうか。人によってはそういうヤツもいるやに聞いた。たぶんそのほう、前世はトカゲかヘビか爬虫類の類いのものであったのだろう。あるいはどこぞの国の首相だったのかもしらん、知らんけど。ところでカンダタ、そのほうに2、3訊ねたいことがある、心して聴け。もし、ウソ偽りを申さば、ワシのこの、アーネスト・ボーグナインのような目の前でいま一度そのほうの舌を抜いてつかわす。そのほう以前、上空より蜘蛛の糸が下りてきたのを憶えておろう。しかも、これ幸いなりとその蜘蛛の糸に取り縋ってこn地獄界がらエスケープせんと謀ったことに相違ないな?」

「恐れ入りましてございます。確かに仰せの通り相違ございます。ですが大王様、上空より下りてまいりましたものが蜘蛛の糸などとは、一向に存じませんでした。そのようなことはいっさい頭にはなく、その蜘蛛の糸に取り縋ったのでございます」

「その細い糸を蜘蛛の糸だとは思わなかったのだな。まことウソ偽りは申すでないぞ」

「めっそうな、ウソ偽りなど生まれてこのかた・・・いえいえ、失礼をいたしました。この地獄界へまいりましてこのかた、一度たりとも」

「いま一度訊ねる。その細い糸を蜘蛛の糸とは思わなんだな」

「はい、思いませんでした。誓ってそのような」

「黙れ、黙れ! 小賢しいやつじゃ、猪口才な。たったいまそのほう、申したではないか、蜘蛛の糸と。蜘蛛の糸に取り縋ってと申したではないか。蜘蛛の糸と知ってのことに相違ない。きりきり白状いたさばよし、返答次第では容赦はせんぞ! 他の目はごまかせてもこの閻魔大王アーネスト・ボーグナインの目は誤魔化せんぞ!」

「お言葉を返すようでございますが大王様。最初にお話になったとき、大王様、ご自分の口から蜘蛛の糸と仰せになりました」

「えェ? ワイの口が言うたやて? えーッ、言うたかあ?」

 と閻魔大王、後ろに控えております赤鬼の赤兵衛、青鬼の青左衛門のほうを振り返ってみますが、赤・青ともに下を向いて目を合わせようとはいたしません。とは申しましても閻魔大王でございます。こんな罪人に言い負かされては大王の沽券にかかわるとばかり、

「ほたら訊くけど、ワイが蜘蛛の糸や言うたからいうて、なんでおまえが蜘蛛の糸や思うんや。おかしやないか、地獄はそないに甘いとこやないねんぞ」

 閻魔大王はもう無茶苦茶でございます。理屈も何もあったものではございません。それというのもカンダタがあまりにも落ち着いていて、恐れ入ったふうもなく口答えするのが、癪にさわるというか勘にさわるというか、それでこんなトンチンカンなことになったのでございます。(つづく)