朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

落語『蜘蛛の糸』ー30

 さてお噺をもとに戻しますと、と申しましても、わたくしの話はもとがなんの噺だったのか、これだけ横にそれたり、たびたび道草を食ったりしておりますとなんの噺をしているのか自分でもわからなくなるという、このお釈迦様にレターを送った老人とさした変わらないなと、思ったりしておりますが。

 このリンリンパトロールの、半分以上ボケの入った老人からの説明でございますから、閻魔大王、こめかみに青筋を立てて、椅子の上のお尻も浮いたり沈んだり。そんな話をこの老人、行きつ戻りつ、ときにはつっかえ、名前や場所などの名称を忘れたりのかくかくしかじかお釈迦様から蜘蛛の糸、そしてカンダタへと繋がっていく小説『蜘蛛の糸』のストーリーの概要と、自分が疑問を持ったその顛末をお釈迦様へ疑問として手紙でお伝えした内容をじっと我慢して聴いておりました閻魔大王は、このリンパト老人に賽の河原の石積みの刑をを与えたのでございます。本来なら一番軽い罰で済んだはずだったのですが、読んだのはフィクションであるはずの小説なのに真に受け、お釈迦様の行為に疑問を持ち、さして考えることもせずすぐに、お釈迦様へ非難めいた手紙を書き送るなどもってのほか、その軽率さを戒め、忍耐と謙虚を学び、修行せよという意味も含めての、賽の河原の石積みなのでございます。

 閻魔大王はすぐこのことをお釈迦様にお報せせねばと思ったのでございますが、いや待てよ? と思い留まり、このリンパト老人の申し述べたことが本当なら、カンダタは今もきっとこの地獄のどこかにいるに違いないと考えたのでございます。本来ならば、いつも大王のすぐ横に控えております馬の頭、メズのヒン次郎に捜すように申しつけるはずでございますが、ヒン次郎はタキクリという女鬼との結婚を控え、休暇を取っていたのでございます。

 そこで閻魔大王は後ろに控えております青鬼の青左衛門にを呼び、メズのモー太郎にすぐ来るように命じたのでございます。

 ご存じのことと思いますが、モズ(牛の頭)のモー太郎とメズ(馬の頭)のヒン次郎は兄弟で、兄のモー太郎が地獄の鬼全般を束ねるリーダーで、弟のヒン次郎が副リーダーということになっております。

 さて、閻魔大王の命を受けましたモー太郎、まだ若いのに老眼が進んだのか、大王の前では外しております鬼専用の眼鏡、ハズ鬼ルーペをかけ直しまして血の池の畔にまいります。そこで獄卒機数名を呼び寄せ、カンダタという男を捜すように命じます。

 とうの本人カンダタはと申しますと、ブクブクと煮えたぎってもうもうと湯気のたっている血の池のなかで、他の亡者に混じって浮いたり沈んだりしております。つい先ほどまで地獄の責め苦のひとつであります針の山を登ったり下りたり何往復もしたあとでございますので、膝の関節がガクガク、ジンと熱をもっております。これはやはり温めるより冷やすほうがいいのにと思いながらカンダタ、これも地獄に落ちた運命とあきらめ、浮いたり沈んだりしておりますところへ名前を呼ばれたのでございます。(つづく)