朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

落語『蜘蛛の糸』-37

 ヤオヨロズ、800万の神々と申しましても色々でございまして、わたしどもが、それはちょっと困ると思うような方々も含まれております。貧乏神に疫病神、もうひとり忘れてまへんかと手を挙げましたのが死に神さんで、わたしどもはこのお三人の神様を忌み嫌うておりますが、実は誤解でございます。ほんとのことを申しますと、われわれ人間の味方、なくてはならない存在なのでございます。

 われわれ人間は、まことに嫌な貧乏も病も死も、このお三方の所為やと思い込んでおりますが違うのでございます。貧乏にも病にも、死ぬいうことは仕方ないんですが、それでも死に神さんに話を聴きますと、「人の寿命というのはもともともっと長く生きられるようにできてるんや。けどな、本人が不摂生やらわけのわからんことで命を縮めてる、そやさかい悔しいけど迎えにいかな仕方がない、本当のところ、そうならないように必死に護っているんやが、人間ほど身勝手な生きものはない、大酒は飲む、『も一軒行こ!』 言うて夜更かしはする、シメはとんこつラーメンに限る言うて暴飲暴食、パチンコ麻雀、競輪競馬と勝手のし放題、それでカネが無うなる、身体の調子がどうもとなると『あーオレには貧乏神がついてる』『疫病神のせいや』と自分の無茶苦茶ぶりは棚の上に放り上げて反省がない。それが祟っていよいよとなると、『ああ、あかん。おれには死に神がついてる。迎えにきよった。なーんも悪いことしてへんのに』」

 これ、勘違い思い違いなのでございます。死に神、疫病神、貧乏神のお三方から見れば、あんたがこれまで生きてこれたんはわたしら三人の神が、あんたの背中にくっついて必死にブレーキかけてきたからやでと、もしわたしら三人がおらなんだら、あんたはとうにお陀仏やでと。これが本当なんです。

 皆様はご存じかどうか、このお三方、嫌な役目を負っているというんで、他の神様より位が上なんです。ここだけの話ですが。

 さて、天国・極楽合同の賢人会議に噺を戻しますと、パーティは飲食はそれぞれ持ち寄りということになっておりますので、この800万の神々も持ち寄りでございます。

 コメ、ムギ、粟、稗、クリ、クルミ、柿、リンゴ、ミカン、大豆、アズキに空豆、エンドウ豆、大根ニンジン白菜キャベツ、鯛にヒラメにブリにタコ、イカはスルメでハマグリ貝貝、シジミあさりにアワビにイセエビ、昆布ワカメに、干しのり、佃煮、「ごはんですよ」は三木のり平。きりがございませんのでこのくらいでやめますが、三段重ねの鏡餅などというのも混じっております。

 そして宴会になくてはならないものがアルコール、お酒でございます。灘の銘酒から日本各地のお酒、「越乃寒梅」はもちろんんこと、八海山、獺祭、原酒天領盃、南部美人などといういかにも酔えばいい心持ちになりそうな日本酒からビール、ワイン、焼酎、甕に入った沖縄産の泡盛、これはアルコール度数80度の泡盛に、頭から尻尾の先まで3メートルもあろうかという生きたままの毒蛇ハブを2匹まるごと漬け込んだ「ハブハブ鬼ごろし」、甕のなかでトグロを巻いております。はてはこの日のために、凶暴な羆の肝を100頭分集めて、100年つけ込んで寝かせた薬酒「熊の誉れ」、これは北海道はアイヌの神様、キムンカムイが持参したものでございます。

 だれがどこで造ったのかそれさえ定かではない、命の危険も保証しないという密造酒の類いまで含めますと膨大な量のお酒が、800万の神々ひとりひとりがそれぞれ振り分け荷物に肩にかけたり風呂敷で包んだり、荷車、大八車、リヤカーなどなど、銘々かまがま、宴会場に運び込まれたという、えらいことでございます。(つづく)