朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

落語『蜘蛛の糸』ー46

 メインステージの中央に儲けられた蓮華座にお釈迦様があぐらをかいてお座りになります。そのメインステージの高さは、38メートルでございます。

 この場所、お釈迦様がお座りになった蓮華座から見おろす会場の無限に広がる会場から38億の神仏や賢者偉人の皆が皆お釈迦様のほうを見上げ、天国・極楽賢人会議の宣言を今か今かと待ちわびております。すると、どこからか直径が380センチメートルほどの雲がお釈迦様のお膝元にやってまいります。

 この雲、以前に登場しておりますのでご存じのかたもおいでやないかと思うんですが、孫悟空の自家用車キント雲でございます。大きくなったり小さくなったりは変幻自在、ポケットに収まるかと思えば、3万8000人でも載せて運べるという科学技術の発達した現代社会でも造ることは不可能という優れものなのでございます。

 そのキント雲がなにゆえをもってお釈迦様のお膝元にやってきたのかと申しますと、それにはやはり理由がございまして、その雲の上には風呂敷ほどの大きさの、あかね色の絹織物が1枚、置かれております。

 その布を右手でお取りになったお釈迦様は、お座りになっておりました蓮華座からおもむろにお立ち上がりになりますと、お持ちになった布を高く掲げ、しばらく目を閉じておいでになります。

 それまでざわついていた38億の群衆はいっせいに水を打ったように静まり、会場全体にしわぶきひとつ聞こえぬ緊張感が漂います。

 そんななか、静かに目をお開けになりますと、遠く近く会場全体を視野に慈悲深い眼差しでご覧になったあとに、さっと一振り、高く掲げたあかね色の布をお振りになったのでございます。だれもが待ちに待った天国・極楽合同賢人会議開催の宣言でございます。

 それを合図に孫悟空士指揮の天国・極楽航空音楽隊のファンファーレが高らかに天上界に響き渡ります。曲は『天国よ極楽よ、永遠なれ』。ハイドンヘンデルベートーヴェンモーツァルト、フォスター、チャイコフスキーなど、その他大勢の合同による作曲でございまして、日本からは世阿弥山田耕筰古賀政男、宮城道雄、黛敏郎、團伊玖麿、池辺晋一郎芥川也寸志、小関裕而、服部良一早坂文雄武満徹山本直純、などの面々も参加しております。

 開催宣言のファンファーレと同時に、一瞬静まりかえっていた会場全体がこれまでにない喧噪に包まれます。割れんばかりの拍手と歓声、笑い声、どこからか一団によるヒューヒュー、ヒューヒューと甲高い指笛がさまざまな喧噪を突き破って聞こえてまいります。賢人会議とは名ばかりのドンチャン騒ぎに幕開けでございます。(つづく)