朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

落語『蜘蛛の糸』ー49

 ことの成り行きで仕方なく『蜘蛛の糸』の顛末をお打ち明けになりましたお釈迦様でございます。しかしこれがのちのち大変なことになるとは、「お釈迦様でも気がつくめえ」のセリフにある通りで、打ち明けられた片方はと申しますと、弁天さんでございます。弁天さんはむろん神様には違いございませんが、オンナにもまた違いない、というわけで。

「あなただけに」とお釈迦様が念を押されてお打ち明けになったトップシークレットはアッという間もあらばこそ雲散霧消、木っ端微塵、あわれにも砕け散ってしまったのでございます。これではもう、頑是無い子供どうしの「ゆびきりげんまんうそついたら針せんぼんの~ます」のほうがよほど信用がおけるというもの。

 お釈迦様おんみずから拡声器で告白したも同然、噂の拡散は一瀉千里と申します。「アッ!」という間もあらばこそ『蜘蛛の糸』の顛末は、38億の神々、諸仏、諸賢の口から耳へ口から耳へと光速に負けず劣らずの速さで伝わったのでございます。

 こうなればもう仕方ございません。お心やさしいお釈迦様のこと、弁天さんを叱ったり咎めたりはなさいません。やむを得ずとはいえ心のうちを明かしたのは自分であって自分の不徳のいたすところと、自分をお責めになる。

 さて会場はと目を転じますと、この話が伝わるまでは蜂の巣をつついたとはこのことで、快刀乱麻、百花繚乱、侃々諤々、議論百出、話題沸騰、閑話休題と4文字熟語の乱舞に加え芸能ネタ満載の騒々しさでございました。

 それが一瞬にして急ブレーキ『蜘蛛の糸』の話題へと急展開、続けてお釈迦様主演のこのワイドスクリーン70ミリ映画の脚本、演出、カメラワーク、などなど、また、お釈迦様お悩みの解決にはどんないい手があるか? などなど話題沸騰、議論百出、侃々諤々、もう収拾がつきません。

 そんななか、ひとりの仏様がお釈迦様のまえに進み出てまいります。この仏様、お釈迦様と同じくきれいに剃り上げた坊主頭で、おさな児のように邪気のないお顔であごの下には赤いよだれ掛けをかけておいでになります。

「・・・ああ、地蔵くんですね。お変わりはありませんか」

 ご存じ子供の守り神、お地蔵様でございます。

「お釈迦様、お話がございます」

「何でしょう? うかがいましょう」

 てかてかつるつるの頭がふたつ、向かい合います。大きさで申しますとスイカとメロンほどの比率。お地蔵様の話が始まります。たちまちあたりは潮が引いたように静かになり、これまでの騒々しさがまるでなかったかのようで、さすが天上界の方々は礼儀をわきまえておいででございます。(つづく)