朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

落語『蜘蛛の糸』ー52

 お地蔵様の話を聴いておいでの多くの神仏・諸賢から、ハナをすすりあげる音や嗚咽をもらす大きな声が天上界の霊山に届くや木霊となって返ってまいります。

 やがて木霊が落ち着くのを待って、お地蔵様は続けてお話しになります。

「そののちカンダタが悪名馳せる大泥棒となりましたのは、なにかやむにやまれぬ幼いころの不幸せな境涯がトラネコ・・・いやいや、トラネコはタイガースでございました。トラゾウ・・トラゾウ? トラゾウはヒロサワ・・・」

 とどこからか女性の声で

「トラウマでしょ、言いたいのは」

 そこでお釈迦様は、その言葉を継いでお地蔵様をお助けになります。なんとお心のやさしいお釈迦様ではありませんか。

「そうですか。そういうことがあったのですか」

「ところでお釈迦様。ひとつ提案がございますが、いかがでしょう」

 お釈迦様が軽くうなずかれるのを待ってお地蔵様が

「わたくしども天上界に住まう多くの者みな、このはるか下のほうに地獄という世界があることは承知しております。だが、だれひとりとしてそこを訪れたことはございません。できますればわたくし、カンダタとはまったく知らぬ間柄でないことはこれまでに申し上げたことでお分かりいただけたと思います。袖ふれあうも他生の縁と申します。どうかお釈迦様、閻魔大王渡航ビザの申請と、許可をいただき、わたくしが地獄へ行けるようお取り計らいをお願いいたします。ぜひまいりましてカンダタに会い、彼の生涯の因果を慰めたいと存じます」

 お地蔵様の話に大変感銘をお受けになりましたお釈迦様は、秘書のキー子を呼び、早速そのように取り計らうよう仰せ付けになります。

 秘書のキー子と申しますのは、もうお忘れの方もおいでやないかと思いますので思い出して戴きまして、お釈迦様のそのまえは閻魔大王の秘書をやっていたという経歴の持ち主で、身体中がマッ黄ッ黄ィの黄鬼なのでございます。いまの姿はと申しますと、ソフトクリームのなめ過ぎでマツコデラックスのような肥満体でございます。

 お地蔵様の話でおわかりのように、天上界の住人でだれもが耳にしたことはあるのですが、実際に地獄の世界を見た者もましてやそこへ身を置いた、経験した人は皆無でございます。

 冥土のミヤゲにとは人間界の話ですが、ましてや地獄でございます。我も我もと参加希望者が引きをきりません。地獄参りには冷や酒が必要とばかり、すぐにコンビニへ走る神様もございます。もうこうなりますと収拾がつきません。

 おいでのお客様はもうご存じのことと思いますが、天国とか極楽とかいう世界は暑くもなければ寒くもない、いつも爽やかな風が吹いていて色とりどりの花々が咲き乱れえもいわれぬいい香りを放ち、菩提樹の枝枝には極楽でしか見られないという極楽鳥がこれまたえもいわれぬいい声でさえずっているという・・・そんなワールドでございますからこれほど住むのに最適なところはございません。とは申しましても、ちょっと見方をかえますとこれほど退屈な場所もないのでございます。ぜいたくとはわかっていても無い物ねだりは人間界ばかりの話ではございません。それに比べて初物ずくしの地獄見物、もう行くまえのいまから話題沸騰! 神様仏様、諸賢人の目の玉はわけへだてなく好奇心の炎となって、キラキラと輝き100万ボルト。こうなりますともう、だれとだれ、だれとだれを選ぶというわけにはまいりません。皆が皆、熱烈な参加希望者なのでございますから・・・(つづく)