玉手箱の行方 その2
「それでな」
「それでなて、なんのこと?」
「昨日の話の続き」
「なんの話やった?」
「人の話まともに聞いてないやろ」
「おとーさんええ加減やからな」
「そんなことはないよ。しっかり聴いてたら、その話のなかから1滴か2滴なるほどなあ、思うこともなきにしもあらずやで」
「1滴か2滴、それもなきにしもあらずかいな」
「玉手箱の話や」
「ああ、そやったかな」
「桃太郎が舟で鬼ヶ島へ渡った、その舟は島太郎の持ち舟で、それを桃太郎がチャーターして鬼ヶ島で鬼を退治して金銀財宝、舟いっぱい積んで帰って来たということやけど、そのとき桃太郎は供につけてたサル・キジ・イヌをどうなったか、いう話は聞いたことないやろ?」
「どうしたん?」
「鬼ヶ島に置いてきた」
「なんで?」
「金銀財宝ちょっとでも余計に積もう思て、うまいこと言うて残りのきび団子渡して置いてきた」
「ひどい話やな。それやったら自分も残ったらよかったのに」
「だれが舟動かすんや」
「そうか。それやったら金銀財宝自分の体重分も積んで、泳ぎながら舟押して帰ってきたらええねん」
「ママンもだいぶオレと呼吸が合うてきたな。せーかい」
「それはええけど、玉手箱の話やったんちゃうの」
「そやった、玉手箱や。桃太郎が浦の島太郎から借りた舟を返しに来たんと入れ違いに島太郎は亀の背中に乗って竜宮城に旅立ったんや」
「ふ~ん。うまいこと話を作るな。見てきたみたいに言うな」
「それで、50年があっという間で、月日の経つのも夢のうち、ちゅうわけや」
「帰ってみればこはいかに、いうわけやね」
「そうそう。ほんまにオレの呼吸がわかってきたやないか」
「ほんまは言いたないねんで」
「それで、島太郎もしゃあない。知った人はだれもいてへん。そんときゃ桃太郎のことなんかすっかり忘れてるからな」
「そやけど、桃太郎はまだ生きていたんやろか」
「ああ、あの鬼ヶ島から持ち帰った金銀財宝を資本に、いまでいうたらSBGの孫さんみたいなもんや、世界の大金持ち50人のなかのひとりに数えられるほどの大出世や」
「カネのためなら一緒に戦うた仲間も平気で裏切るようなヤツやからな。不思議とそんなんがええ思いすんねんな」
「いやいや、不思議でもなんでもないんが世の中やけどな」
「玉手箱はどうなったん。まだ出てこんの」
「どうして出そうか、考えてんねや」
「おとーさん、ほんまは、詐欺師やろ」
「当たらずといえども遠からず、やな」
「あきれるわ」
「島太郎が帰って来たんを風の便りで聞いた桃太郎が訪ねてときは、もう島太郎の葬式も済んで、遺品としてカラの玉手箱が1個残ってた、という可哀想な話や」
「それで話はおしまいなん?」
「いやいや、オチはこれからや。その玉手箱、わずかなカネを渡して桃太郎が持って帰ったんやけど、皮肉なもんやで。もういらんいうようなとこにカネは集まるもんやな。その玉手箱、竜宮城の乙姫さんから貰った、えらい貴重なもんやいうのがわかって、国宝に指定されてもうたんや」
「そうなん」
「ああ、その玉手箱、いまどこにあるか知ってるか?」
「知らん。どこにあんの?」
「ほんまかいな」
「これヒミツやからな。だれにも言うたらあかんで」
「どうなんの?」
「バレたら、イノチの保証はできんで」(おわり)