玉手箱の行方 その1
「ママン、玉手箱、知ってるやろ?」
「玉手箱? 知ってるよ。桃太郎やろ」
「桃太郎? 桃太郎やないよ。玉手箱やで」
「ああ、玉手箱かいな。玉手箱やったら、ほら、あれ、カメを助けて」
「出てこんか。一寸法師」
「一寸法師やないよ、あれやん、太郎、浦島太郎」
「そうそう。それそれ。乙姫さんから貰うてきたいうやつ」
「それがどないしたん?」
「いまどこにあるか、知ってるか?」
「知ってるか、っておとぎ話やで。あるわけないやろ」
「それがあるんや。あったんや」
「ほんまかいな」
「桃太郎がサル・キジ・イヌを連れて鬼ヶ島行ったいう話知ってるやろ」
「知ってるよ。鬼退治やろ」
「鬼ヶ島までどないして行ったかいうんは、知ってるか」
「どないして行ったって、どういう意味?」
「歩いて行ったか車で行ったか、飛行機で行ったかウマで行ったか駕籠で行ったか、そういう意味や」
「おとーさん、無茶言うな。なんで飛行機よ」
「まあ、例えの話や。鬼ヶ島いうたら島やろ。淡路島や小豆島と一緒や。歩いては行かれへん」
「いまは歩いて行かれるけどな」
「いまはな。どないして行った思う?」
「それやったら、舟やろ」
「ピンポーン。鬼ヶ島まで舟で行ったんやけど、その舟は自分の舟か、それともチャーターした舟か、どっちや思う?」
「わからん」
「チャーターしたんや。それもママンがさっき言うた人から借りたんや」
「わたしが言うたて、誰よ」
「浦島太郎よ」
「えーッ! 浦島太郎から借りたん」
「そうや。借りたんや。それで鬼ヶ島渡ったんや。それともう一つ、これはこの話とはかんけーないけど、浦島太郎の名前な、あれみんな勘違いしてんねん」
「浦島太郎やろ? 勘違いて、なによ」
「名字が浦島で、名前が太郎、みなそう思てるやろ」
「違うの?」
「違うねや。名字が浦で、名前が島太郎がほんまや。浦、一拍おいて島太郎がほんまや」
「ほんまかいな。おとーさん、ええかげんやからな。それやったらなんで、浦島太郎になったんよ」
「そら歌が出来たんでそうなったんや」
「歌が出来たから? なにそれ?」
「そうや。むかしむかし浦島は助けたカメに連れられて~、やろ。それが浦やってみ、むかしむかす浦は~、これやったら唄われへん。それで仕方ないいうんで浦島となったわけや」
「ほんまかいな。なんか・・・」
「ほんまやて。オレらが以前住んでたとこは須磨浦やったやろ。源平合戦で有名な壇ノ浦、関東では霞ヶ浦、淡路島にはそのままで浦いうとこもあるで。その浦の住人が島太郎、それで浦に住んでる島太郎が歌のせいで浦島、太郎になってしもたんや。ほんまのほんまや」(つづく)