朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

『玉手箱』をなぜ開けた?

「玉手箱、知ってるやろ?」

「浦島太郎やろ。知ってるよ」

「あれ、浦島太郎いうけど、ほんまは浦島やのうて、浦の島太郎がほんまや」

「けど歌に、むかしむかし~浦島は~てあるよ」

「それが間違いのもとや。ホンマは浦の島太郎がホンマのホンマや。しかもな、だれもが浦島を岡田とか山本とか、名字や思てるけどちゃうんや。そのころは名前はあっても名字はクライの高い人以外なかったんや」

「そうなん。ほれやったら歌が間違いやいうこと」

「『間違いやないか!』いうてきつく言うつもりはないけど、浦だけでは唄いにくいからな。唄うてごらん」

「むかしむかし~浦は~。ホンマや唄いにくいわ」

「なあ。唄われへんやろ」

「それやったら、島太郎がほんまなんやな」

「そう。浦いうんは場所や。須磨浦とか壇ノ浦とか、霞ヶ浦とかの海岸っぺりの小さな湾になったとこで、漁師が魚獲りに行ったり帰ったりする場所のことや。そやさかい島太郎がどこの浦に住んどったかは知らんけど、どこかのなんとかいう浦に住んでたんやろ。それで浦の島太郎がほんまのハナシや」

「おとーさん、よう知ってんなあ。見直したわ。そないな1銭にもならんこと」

「おいおいおいおい」

「で、玉手箱がどないしたん?」

「おッ、ちゃんと憶えてたな。エライ! あれ、島太郎が竜宮城から帰るときに乙姫さんからもろたもんやろ」

「ミヤゲにな」

「そのときに『開けたらあかんよ』言われたわけやろ。そのときのことやけど、『開けたら殺すぞ!』と強く言われたか、それとも『開けちゃイヤよ~ん』言うてやさしく言われてか、どっちや思う?」

「そら、上品な乙姫様のことやから、やさしいに言うたんとちゃうかな。そんなんなんか意味あんの?」

「いや、とくにあるわけやないけどな。そう思たから訊いたまでやけどな」

「まあ、乙姫様の言いかたによっては、開けなかったかも知らんいうことかな」

「どうなんやろな。けど結果として開けたわけやけど、あれ、開けなんだら島太郎はどうなってた思う?」

「開けたらパッと白けむりやろ、お爺さんになったわけやろ、開けなんだら若者のまま、歳とらんいうことになるんとちゃうの。知らんけど」

「まあなあ。そういうことやろ。けどな、そのままずーッと若者のままだったら、考えたらそれもツライんとちゃうか」

「ええやんか。死なへんのやろ。ずーッと若かったらこないええことないやん」

「そらええこともぎょうさんあるやろけど、ええことばっかりやないで。結婚して嫁さんが出来る、子供が出来る孫が出来る、それがいつか自分を追い越して死んでいくねんで。みーんな自分が見送らなあかんのやで」

「そらそうやな。そう考えると、適当なんがいちばんええのかな」

「けど玉手箱、『あかん』言われたのになんで開けたんやろ。あかん言われると、その反対のことやりたなるのが人間なんかな。『ツルの恩返し』も覗いたらあかん言われてんのに、覗いてしまうやろ」

「ほんまやね。なんでやろ。おとーさん、どない思う?」

「好奇心、いうやつやろか。それがいつか、ニンゲン滅ぼすことになるんかな?」

「怖いこと言いな。するんやったらええハナシしてよ」