ニッポン沈没、と
「ママン、聞いたか?」
「なにを、なんのハナシ?」
「ニッポンが沈没始めたちゅうハナシ」
「おとーさん、ご冗談を」
「ウソやない、ホンマのハナシや」
「ホンマのハナシいうて、ホンマもハナシも、カタカナになってるやないの。信じられんわ」
「そんなんかんけーないやろ。まあ、すぐに信じィいうても、信じられんのはわかるけど」
「それがホンマやったとしても、何百年、何千年もあとのハナシやろ。死んでおらへんわ」
「まあ、どうせえいうても、どないもならんハナシやけどな」
「そやろ。おとーさん、昼、なにする?」
「お好み焼き、しよか」
「わかった」
「それとな、沈没だけやないねや」
「まだあんの。しょーもな」
「しょーもないうたらしようーもな、やけどな。沈没だけやのうて、いずれニッポン海もなくなるらしい」
「ニッポン海がなくなるてどういうことよ。ハハーン、わかった。沈没するわけやから太平洋になってしまういうわけやな」
「そっちのほうにハナシがいがんでもうたら、どんならんな。そやのうてな」
「なによ」
「沈没しながらのハナシやけどな、少しずつ中国や韓国、北朝鮮のほうにじりじり移動してるらしいわ」
「ほんまかいな。まえに聞いたハナシやけど、太平洋側、アメリカのほうに近づいてるいうてたんとちゃうの。知らんけど」
「そやろ。オレもそう思てたんや。ところがそやないらしい。普通はな、ニッポンなんかの島国、中国なんかのアジア大陸側から磁石みたいに引っ張られて移動するんが常識らしいけど、ニッポンの場合はそやないらしい」
「そやないて、どういうこと?」
「大陸側にはなんの兆候も変化もないのに、ニッポンが独自に動いて、それも年々スピードは増してるらしい」
「専門の人やったらわかるんとちゃうの」
「それが、クビひねってはるらしいわ」
「年々スピード増してるて、どのくらいなん。クルマくらい?」
「まさか。年に何センチか、何じっセンチくらいや思うで。知らんけど」
「それやったら、なんも心配することないやろ」
「まあオレらが生きてるあいだはな」
「けどそれやったら、いつかはニッポンも大陸の一部になってまうんやな」
「けどママン。沈没も始めてるんやで。大陸にくっつくんが早いか、沈没が早いか、まあどっちにしても、オレら生きてにけどな」
「ええやん。昔から『アジアはひとつ』言うてたから、その通りになるわけやろ」
「そやな。けどそうなると、いつかニッポン人が、絶滅危惧種に認定される日が来るような気がして仕方がないんや」
「えやないの。そんときゃそんとき。そうなったらあきらめたらええだけやんか。知らんけど」