竜三の死に方
「やっぱりな。そんな気がしたんや」
「なんのこと?」
「家を出るまえ、おしんとか、子供にいろいろやさしいこと言うてたやろ」
「ああ、『おしん』のこと。死んでもうたな。身勝手とちゃうの」
「いろんな見方があるからな。こっちから見りゃ立派な死に方、責任取っての身の処し方やろけど、あっちから見りゃ現実逃避、嫁さん子供を放って勝手なことするわけやから責任放棄、なんやねんな、言われても仕方がないやろ。どうもオトコとオンナじゃ感じ方がちゃうような気がするな」
「男の人って、どっか身勝手なとこあるやろ。おとーさんのこと言うてるんとちゃうよ」
「言うてるんやないか」
「まあ、言うてるんやけど。今のこと言うてるんとちゃうよ」
「なあ。若いころって、あれなんやろ。もうそろそろ死のかという歳になってみりゃああれこれがオロカやったと思うけど。後悔してもしゃあないけど、知らん間にしてるんな」
「短刀で心臓突いて自殺した、言うてたやろ。あの報せに来た人」
「自殺と言えばそうやけど、自決と言うたほうがええと思うな」
「どう違うの?」
「いや、オレも知らんのやけど、竜三は自分自身のために死んだやのうて、隣組の会長やったりして身近におる若者何人か知らんけど戦地に送る手助けをしたいう責任を感じてたんやな。そして自分の子供もふたり戦地に送って、ほんまはおしんが言うてる戦争は絶対アカンいうんを聞かんと、この戦争は正しいんや、思てたんやろな。絶対勝つと信じてた言うてたからな」
「けど歴史のなかでは世界中がイヤゆうほど戦争して、アカンこりごりや、思てたんとちゃうの」
「なんなんやろな。アカンいうんがわかっててやめられんいうんは、わけわからんわ」
「欲なんかなあ、知らんけど。お山のタイショー、なりたいんとちゃう、オトコの人」
「なあ。けど、当時竜三なんかと比べもんにならんくらい責任とらなあかんレンチュウがようけおったちゅうハナシやけど、責任とるどころか手の平返し、ぬくぬくと世渡りして、あとになって偉そうに言うてるやつがようけおったらしいで」
「ハハハ、おとーさんなに言うてんの。今でもよやないの。責任を痛感してる言いながら、蚊に刺されたほども感じてないレンチュウがうようよいるやないの」
「うようよかいな。まるで蛇蝎みたいに言うな」
「蛇蝎てなによ」
「漢字で書くとな、ヘビとサソリや」
「ハハハ、ヘビとサソリに申し訳ないな。『いっしょにすな!』言うて、怒るんとちゃう。知らんけど」