寅さんとメロン
「いつもの草団子『とらや』の、茶の間でのハナシやけどな」
「はあ」
「あれ、何作目かは知らんけど、浅丘ルリ子もそこにおったんでマドンナで出てたときのハナシや」
「なにかあったん?」
「知ってるやろ。メロン事件」
「知ってる知ってる。寅さんは食べられんかったんで、ケンカになるやろ。食べ物のウラミやね」
「そう、あのメロン、寅がなにかで貰ったんやと思うけど、つい寅の留守中にそのメロンを切り分けて、さあ食べようとしたときに寅が帰って来るんやな」
「ハハハ、そやったね。予定では、帰ってくる予定ではなかったんやろ」
「ところが、寅の分はついうっかり勘定に入ってなかったんでひとつ足らへん。さあエライこっちゃ。観てたオレも『ああ! 帰ってきた。エライことですよ』思たもん」
「メロンだけになあ。サツマイモやったらあないなことにはならんかったんやけどな」
「そうや。イモやったら『いらねえよゥ、ヘになるだけじゃねえか』で済むハナシやけどな」
「メロンはそうはいかへんよ」
「メロンはな。いまでも高級品やからな」
「あの場面、このまえ山田洋次が『徹子の部屋』にゲストで出てたときに映ったんやけど、監督、聞いてて、『ああ、なるほど』いうことを言うてたな」
「観てたんやけど、なに言うてた?」
「あの場面、映画館の場所によって反応が違う、言うてた」
「そうなん?」
「うん、東京やけど、浅草と山の手ではお客さんの反応がちゃうんやて」
「そう、どない違う言うてた?」
「山の手では笑うけど、浅草では笑わへん、らしい」
「なんでやろ?」
「まあ、簡単に言やあ、年に何回もメロン食べられるところと、何年に1回か、まだ食べたことがない、いう違いやろな。オレもとても笑われんかった。なんとも言えん妙に悲しいような、ああ観らんかったらよかったみたいな、そんな気分やったな」
「メロンだけになあ」