ここだけのハナシ
「知ってるか?」
「なんのこと?」
「ここだけのハナシ、いう意味」
「知ってるよ。ここだけのハナシやろ」
「そういうことなないねん」
「どいうこと?」
「ここだけで、ママンとオレのハナシやから、ほか行ってベラベラしゃべったらあかん、いうこと」
「わかってるよ、そんなこと」
「それやったらええわ」
「ひとつ訊いてもええか?」
「ええよ」
「ここだけのハナシやったら、ここでやったら、この場所でやったら他の人にもハナシてもええ、いうことやろ」
「アホか! それやったらここだけのハナシやないやないか」
「それやったらここだけのハナシやないやないの」
「それな、屁リクツ言うんや。ここだけのハナシ言うたらな・・・」
「わかってるわいな。おとーさんとわたしだけのハナシ、いうことやろ。冗談をマに受けて、アホか! はないやろ。アホか! そのままお返しするわ」
「朝から、おちょくってたらどんならんな」
「なんかあんの? ここだけのハナシ」
「ああ、ここだけのハナシやで」
「わかってる、言うてるやろ」
「来年のことやけどな、サクラの木、ニッポンから全部なくなるらしい」
「どういうこと?」
「4月5月と花が散って若葉が出るころ、ケムシがようけ発生するやろ」
「はあ、わたしもやられたことあるわ。知らん間に服についたり、あれッ思て頭さわったら這うてたり、あれウデなんか刺されたらミミズ腫れになるやろ。いつまでもうっとしいてかなわんわ」
「刺されたことあるんやな」
「わたしはないけど」
「なんやそれ」
「けどそれだけでニッポンからサクラの木がなくなるやなんて、ちょっとおかしいんちゃう?」
「それがな、空前絶後、前代未聞、盲亀浮木、一期一会、四面楚歌、抱腹絶倒、支離滅裂、これくらいでええやろ。これくらいケムシ大、大、大発生するらしい」
「ムチャクチャや、知ってるだけ言うたな」
「それでな発生してからでは遅いんで、もう九州の方では根元から伐採が始まってるらしい」
「そうなん。知らん。聞いたことないよ」
「なにも言うてないからな」
「どういうこと?」
「これからがな、ここだけのハナシや。ここだけのハナシやで」
「わかってるよ。しつこいな」
「実はな、そもそも、というハナシや」
「なんやのん、そもそもて?」
「サクラの木があるからアカン、というハナシや」
「ますますわからんわ。サクラいうたら国の花、国花やろ。なんでそれがアカンの」
「そもそもさくらの木がなかったらなんの問題も起きんかったんやないか、という論法やろな。それやったらニッポン国中のさくらの木、ぜ~んぶ切り倒して1本残らずなくしたらええんやないか、ちゅう結論に達したわけや」
「だれが決めたん? そんなんでええの?」
「ええも悪いもないやろ。表向きはケムシやからな」
「ケムシやったらしゃーないな。好きにしたらええねん。アカン言うても、どうせするんやろ」