あれから25年
「うるさいなもう、ピーピーと」
「おとーさん、なに怒ってん、しゃあないやろ」
「テープ貼って空気漏れんようにしたのに、なんの不満があるんや」
「寂しいんやろ」
「冷蔵庫やで。なんで冷蔵庫が寂しがんねん」
「おとーさん、気の持ちようやで」
「なんやねん、気の持ちようて」
「おとーさんがな、ひとりもんとするやろ」
「ママンがおるやないか」
「たとえばや。ひとりもんやったとして、だ~れも話す相手がおらん。家のなかはし~んとして、まあテレビは勝手にしゃべりよるけど、なんやしらんもひとつつまらん。そんなときやな、冷蔵庫がピーピーと鳴ってごらん『そうかそうか』てなるよ」
「そんなわけないやろ」
「まあいまはひとりやないから、しゃあないけどな」
「トビラのパッキンがゆるんでるやろ思てテープ貼ったんやけど、まだ空気漏れてんねんな。買うてからまだそない経ってないやろ」
「何年くらいや思う?」
「う~ん、15年くらいか」
「ブー、甘いわ。震災から何年経ってると思てるの」
「これ震災のあと、1年ほどあとに買うたやつやろ。そやったら14年くらいか」
「ブー言うたやろ。1995年やで。来年は2020年やで。計算してごらん」
「えーッ! もうそないなるの。25年やで。そしたらこれ、もうそないなるんか。スマン、許してくれ、オレが悪かった」
「目の前に行った謝っておいで。『これからピーピーお呼びになったら、ハイハイとすぐに参ります』言うて、手ェ合わせておいで」