我がピヨピヨのころ
「小学校1年か2年のころやったと思うけどな」
「なに? どないしたん」
「ウン、同級生のなかでも、ちょっと遅れてたんやな」
「けどおとーさん、走るのは速い、言うてたやろ」
「そうやねん。走るんはな。けど遅れてるんはアタマのほうや」
「いまは普通やろ?」
「まあ、見ての通りやな」
「なにかあったん?」
「いまになって思うとええ先生やったな。本田才先生」
「名前、サイいうの? 変な名前やな」
「まあムカシのことやからな。けっこういまから思たら、へえ思うけど、いまかてわけわからん名前多いで」
「時代やからね。いまはそんな時代いうことやろ」
「サイいうんはな、才能に才やねん。天才の才やな」
「そういうことか。おとうさんおかあさんが、そういうことかな」
「そういうことやろな。それでさっき言うたやろ」
「なんやったっけ?」
「アタマが遅れてるいうことや」
「ああ、それ」
「それで、授業中のことやけど、先生からいろいろ質問されるやろ。それで『ハイ、ハイ、ハイ』言うて、わかってる子は手あげるんやけど、オレわからんから手ェあげへんのやけど、それで当てられることはなかったんやけど、いっぺんな、当てられたことがあったんや」
「手、あげたからやろ?」
「いや、あげてないと思うよ」
「それでも当てられたん」
「そやと思う。先生、簡単やと思たんかどうか知らんけど、オレが答えないかんようになったんや」
「ピンチやな」
「ああ、ピンチや」
「それでなんと答えたん」
「ライオン、言うてしもたんや」
「ライオン? なにそれ。動物当ての勉強?」
「ちゃう。北極で珍しい動物はなんですか? いうんが質問や」
「すぐわかるんちゃう? 白クマやろ」
「そう。ところがオレ、それまで当てられたことなかったかなな、パニックや。ついライオンや言うてしもたんや」
「ハハハ、ハハハ、言うてもうた」
「ああ、言うてもうたんやな」
「ハハハ、ライオンはアフリカやろ。それは知ってたやろ」
「わからん。ライオンはライオン、アフリカはアフリカやからな」
「どういうことよそれ?」
「繋がらんいうことやろな。そのくらいのアタマやったいうことやな。トリでいうたらヒヨコ、ピヨピヨいうてエサ食ってるんが精一杯やっったんやろな」
「へええ、けどそんなことよう憶えてたなあ」
「なあ。憶えてたいうんは、よっぽどやったんやろな」
「よっぽどやったんやわ」