セミの夢 4
「おとーさん、寝言言うてたよ。憶えてる?」
「ネゴト? いつのこと?」
「明け方やったと思う。はっきりとは聞こえなんだけど、なんかミーンミーンいうような、なんかセミの鳴き声みたいに聞こえたわ」
「ギョウザ喰いにいったユメでも見たんやろか?」
「セミの鳴き声とギョウザとなんか関係あるの?」
「セミの鳴き声とはかんけーないけど、ミンミンのギョウザいうんがあるからな」
「おとーさん、ウデあげたやないの。さすが後期高齢者」
「それ、おれのネゴトやないんとちゃうか。ママンの勘違いやで。ネゴトやのーてほんまにセミが鳴いたんちゃう?」
「まだ6月になったばかりやで。早いわ」
「そやなあ。おれのネゴトか?」
「ネゴトやて。しらんけど」
「し、し、し、しらんのかい!」
「日が暮れてからとか、夜明け前のまだ暗いときとかに、突然、ジジジーとか、クマゼミやったらジャウジャウとか、ちょっとのマのあいだやけど、セミが鳴くことがあるやろ? 聞いたことないか?」
「あるある。6階の広場の木に来てるんやろな。なんべんかは聞いたことがある」
「そやなあ。そないに珍しいことでもないな」
「あれ、セミがユメ見てるんやいうて、聞くよ」
「なあ。ハナシとしてはおもろいよなあ」
「おもろいかあ? セミかて生きもんやからユメくらい見るやろ。イヌかてネコかて見るらしいよ」
「そーいうなあ。けどセミの場合はちょっとユメとはかんけーないよーな気ィするけどどないやろ。いや、ほんまにユメ見るいうんがわかったらオモロイけどな」
「どんなユメ見るか、いうこと?」
「そうそう。ママンは、どんなユメ見ると思う?」
「そやなあ? どんなユメ見るんやろ。考えたこともないからな。おとーさんは、どんなユメ見ると思う」
「そやなあ。セミの夫婦がおるとするやろ。そのふたりが」
「セミやで、ふたりやのうて2ヒキやろ」
「まあまあ、ほんまは2ヒキいうんやろけど、フーフやからフタリとしたんや。このふたりが並んで木に止まってたとしーな、日が暮れてからやで。ところが夜中でも明け方でもええけど、オスのほーがやな」
「おとーさん、さっきは自分でニンゲンにたとえてからに、オスやないやろ。主人シュジンのほうがやろ」
「そやな。シュジンでもえーわ。シュジンのほーがやな、ミンミンかジージーかジャウジャウかしらんけど、鳴いたとするやろ。ところが並んで横で寝ていたメス、やないわメスやない、奥さんのセミが横のシュジンに『あんたァ、いまネゴトいうたけど、どんなユメみたん?』いうたとせんかい」
「そんなこと、あるわけないやろ」
「おれもしらんよ。けどセミのことどんだけ知ってるか言われても、セミがどんなこと考えてるか、まったく知らんからな」
「そらそーやろけど、そんなことありえへんわ。ハハハ、笑うわ。セミが『アンタどんなユメ見たん?』なんか言うわけないやろ」
「そやからァ、ハナシやー言うてるやろ」
「ハハハ、ハハハ、ハハハ、ハハハ、ああもうオナカ痛いわ。おとーさん、アホなこと言うて、ハハハ、ハハハ、wwwwwwwwww」