アタマの体操・詰め将棋をやってみよう
「ママン、やったことある?」
「なにを?」
「そやさかい、やったことあるか訊いてんねん」
「そやさかい、なにを? 訊いてるやろ」
「言うてなかったか?」
「聞いてないよ?」
「あれ? 言うてなかったかなあ?」
「おとーさん、頼むで。まだメンドー見るんはゴメンやで。チコちゃんに言うてもらうで。わかってるか、おとーさん」
「わかってるわ、これや。将棋や将棋、知ってるか?」
「なんや、将棋のことかいな。知ってるよ。将棋がどないかしたん?」
「いや、アタマの体操でな、詰め将棋、やってみよか思て。ママンも一緒に」
「アカン、わたし将棋知らんもん」
「知ってる言うたやん」
「将棋は知ってるよ。動かし方がわからん、言うてんねん」
「そういうことか。教えたるわ。覚えたんは子供のころで、あとやってないけど、動かしかたは知ってるからな」
「おもしろい?」
「ああ、クイズと一緒や。馴れてきたらハマルで」
「あるの家に?」
「将棋盤とコマか? ない」
「どうすんの?」
「調べたんやけどな、百均の店で売ってるんやて」
「百円で?」
「いや五百円や。さすがに百円では売らんやろ」
「近くにある? おとーさんが買うてくんの?」
「ああ買うてくる。あるかないか、電話で確かめてな」
「考えてみたら、将棋はよーでけてるなー。『歩』から『金・銀・飛車・角』まで、みなそれぞれ個性があって利点弱点もあって、『桂馬』なんてえー、あんな進み方だれが考えたんやろ。一番弱い『歩』かて相手陣地に攻め込んだら成金いうて『金』の働きするんやから。ところが、相手に取られたらもとの『歩』や」
「相手に取られたら、将棋て、全部取られてら負けいうこと?」
「いや、そやない。『王』さんが追い詰められて、にっちもさっちもいかん、逃げるに逃げられんとなったら、負けや」
「ふーん?」
「テレビでときどきやってるやろ? いまはフジイくんがえらい活躍でブームみたいになってるけど、観たことあるやろ?」
「うん、ある」
「あの人達はプロやからな。展開を読むんやな。場面場面で自分が有利か不利か、それでいろんな手を考えるんやけど、もうそろそろ決着がつくとなったら両方ともわかるんやな、負けたか勝ったか。それで最後の最後詰むとこまで、そこまで行かんでも勝ったほうも負けたほうも分かるんやプロやからな。それで負けたほうがアタマを下げて『負けました』言うんや」
「ふーん、テレビで、そういうこと」
「おとーさんもそういうこと、できんの?」
「なに言うてんねん! 出来るわけないやろ。おれなんか『王より飛車をかわいがり』やからな。王手飛車取りで、王さん逃がさんとどないして飛車逃がそか考えるほうやからな」
「そんなことできんの?」
「できるわけないやろ。飛車逃がしてたらアウト、『おまえ、将棋知らんのかい』言われるわ」
「そんなんで、将棋また、やんの?」
「ああ、アタマの体操にもってこいやからな」
「わたしにもできるやろか?」
「できるできる。おれよりうまなるかも知れんで」
「ハハハ」
「なにがおかしい?」
「いや、べつに」