落語『子犬』
「知ってるか!?」
「知らん!」
「・・・し、し知らんてお前、藪から棒になんやねん。言い方があるやろ」
「藪から棒? 藪から棒はお前やろ。急に来て、知ってるか!? はないやろ」
「ああ、言われてみりゃそうやな。いや、知ってるもんとばかり思てたからな。なあんやお前、知らんのかい」
「なあんやお前、知らんのかいてお前。言うてるやろ。かくかくしかじか、こうこういうハナシがあるんやが、お前知ってるか、言われりゃ、ウンとかイヤとか言われるんやけどな、たとえばやなゲンやんのことや。なあ『運試しや』言うて、たった1枚買うた宝くじ、それがなんと、お前も知っての通りの年末ジャンボ8億円や。あいつ、ぼやいてけつかんねん。なにぬかしてけつかんねん、ちゅうハナシや。なあ、ニンゲンの欲ちゅうんは限りがないな。あと2枚買うてたら前後賞の2億、合わせて10億オレのもんやった、なーんてぬかしやがって。たった3枚買うてええとこ総取りしよかという、思い出すだけでもハラたってくるんやないか。けど、まあ、オレが1円でも損したわけやなし、それはそれで腹に収めて言わへんけど。えッ? なんやて? なにが言いたい? 腰折ったらアカンがな。人のハナシ途中で堰き止めたら流れが変わって話してるオレがわけわからんようになってしまうがな」
「いっつもや。お前にしゃべらしたらグズグズ、わかったようなわからんようなハナシ垂れ流してちゃッちゃッっとハナシのシンだけ言え」
「これがオレ流やからしゃあないやないか。もともとお前が」
「もうええ! わかった、オレが最初に『知ってるか』言うたんがそもそもの間違いやった。お前の性格知ってるのについ、うかーっと言うてもうたんが失敗や」
「わかってくれたか。それやったら許したろ。なあ、例えばや。そうそう、さいぜんのゲンやんのことやけど、ヨメはんのお松ッあん、ようしゃべるスズメのお松、イヌの子ォ生んだん知ってるか? お前が前もってそないに言うてくれたらオレも返事のしようもあったいうもんや。それをお前が・・・」
「わかった、言うてるやろ。知ってるやないか。それやそれ、オレが『知ってるか』言うたんはそのお松ッあんのことや」
「なんや、そのことかい。それで、なんやねん?」
「いや、お前もそれ知ってたら都合がええわ。これからな、行こ思てるや」
「どこにィ?」
「ゲンやんとこに決まってるやないか」
「なにしにィ」
「なにしにィってお前、決まってるやないか」
「わからん」
「お松ッあんが子ォ生んだんやぞ」
「イヌの子ォやろ」
「そうやあ。イヌいうても子ォは子ォやないか。祝いせなアカンやろ」
「ああ、なるほど。祝いにいくんか。行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃいてお前、他人事みたいに言うて。オレとお前、ゲンやんとはこんまい時分からの連れやないか。お前も行くねや」
「オレ、やめとくわ」
「やめとくはて、なんでや」
「そらな、ゲンやんは連れやで、けどお松ッあんは連れやないやろ。そらあ、ゲンやんがイヌでもネコでもええ、カブトムシだろうがクワガタいうても、子ォ生んだらオレかて黙ってないよ。けど、お松・・」
「黙っとれ。行きとうなかったらそれでもええ。送って来たんや、『来い』いうて」
「なに送って来たん?」
「ゼニや」
「ゼニいうたらおカネのことやな」
「そうや。決まってるやろ」
「なんでゼニ送ってきたんやろ?」
「『来い』いうて送ってきたんやから旅費にきまってるやろ」
「そうかゲンやん、あいつ、宝くじ当たったんでユメが叶うたいうて、ホリエモンが住んでるいう東京の、なんとかいうとこに引っ越したんやったな」
「東京の、六本木ヒルズいう高級マンションや」
「そこへ来いいうて、ゼニ送ってきたいうことやな」
「そういうこっちゃ。オレとお前、ふたり分10万、飛行機でも新幹線でもどっちでもええいうて、送ってきたんや。それでもやめとくか?」
「半分の5万、もろてやめとくわ」
「ぬかせ。オレひとりで行って、『清六こないなことぬかしやがった』言うたるわ」
「ジョウダンやがな。子供やな、本気にして」