暑中お見舞い申し上げます
「びっくりしたなあ、もう」
「ふるー。いつの時代の人間や。おとーさんは」
「ママンも知ってるんやから、同時代の人間やいうことや」
「言わなんだらよかった」
「遅い遅い。日韓問題ではムンちゃんがわけのわからんこと言うて暑苦しいてややこしいなかでやで、負けんとトラちゃんキンちゃんがこれまた暑苦しいアッピールしよるし、どないなってんねやほんまに。いつから地球は魑魅魍魎の世界になったんや言いたいな」
「ほんまに。なんかええ話ないの」
「まあ、ないわけでもないけどな」
「なに?」
「ゴルフで優勝したやろ。ハタチの女の子。まだプロになって1年らしいで」
「そんなに大変なことなん?」
「メジャー言うてな、それもイギリスや。ゴルフの発祥地や。世界中の強い選手が集まるゴルフで、まだひよっこみたいな女の子が優勝するなんてだれも考えてへん。それが優勝したんやからな。それも始終ニコニコ笑うて、他の選手から見たら、この子なんやねん、みたいなもんとちゃうかな」
「笑てたらあかんの?」
「あかんことはないけどな。その証拠に、スマイル・シンデレラ言われてるから、あの笑顔はよかったいうことやろ。けど、まわりまわってあの駄菓子屋のおばさん、この人がほんまのシンデレラみたいなもんやな。一夜明けたらマスコミがどっと押し寄せもみくちゃにされてるわけやからな。ほんんまに、わけわからんはあの連中」
「そうそう、あれ、結婚するんやね、あの二人」
「ほんまや。うまいことおもてなししたんやろ。指揮者の小澤征爾の息子と結婚するかな思てたんやけど、あかんかったんやな」
「そういうことやね。けどあの二人、まさか、そんなこと思いもせんかったわ」
「シンジロー、いわれてもなあ」
「なにそれ?」
善人・悪人を見分ける方法
「子供のころの話やけど」
「なに?」
「じいさんがな」
「あの、写真の、お仏壇にあるあのおじいさん?」
「そうそう、あのじいさん」
「なんて?」
「じいさんが子供のころ、カッパと相撲取ってたらしい。川のそばに行くといてて、むこうから勝負仕掛けてくるらしい」
「そんなことないやろ。あれ、ほんまはいてないらしいよ」
「けどじいさんはそない言うてたで。100年以上も昔、明治時代の話やからな」
「信じられんわ。おらん思うよ」
「じいさん、ウソ言うてたんかな」
「そういう意味やないけど」
「カッパの身体何色か知ってるか?」
「知ってるよ。グリーンやろ」
「知ってるやん。好物はなに?」
「キュウリ。あればっかり食べるからグリーンになるんやろか」
「そうかもしれんな。知ってるやん」
「テレビなんかでもそう言うてるよ。キュウリの海苔巻き、カッパ巻き言うやろ。頭にお皿があって、そこが乾いたら元気がのうなる言うて」
「やっぱりいてるんや。そこまではっきりしてるんやからな」
「いやあ、それは話やからな。実際とはちゃうから。いてるんやったら今でもいてるやろうし、どっかで絶滅したんやったら何か、標本みたいなんが残ってるんとちゃう? しらんけど」
「じゃあ、ママンはカッパの存在を信じてないんやな」
「信じるもなにもないやろ。だれも見た人おらんのに」
「そんなことないわ。現にじいさんは相撲取ったて、言うてるからな」
「冗談で言うたんとちゃうの。おとーさんが子供のころやろ」
「冗談やったんかなあ」
「冗談やと思うよ。おとーさん信じてんの、カッパ」
「信じてるよ。会いたいとも思てるよ」
「信じる者は救われるいうから、ええっちゃええけど。おとーさんの勝手やからな」
「そんな冷たい言い方ないやろ」
「けど、なんでカッパの話なんか持ち出したの?」
「いやあ、テレビ観てたらな」
「それで?」
「カッパの存在を信じる者とな、信じられへんいう人といてたんやけど、信じるひとはええ人で、信じられへん言うひとは悪人やと、そんなことを話してたからな」
「そしたらわたしは悪人で、おとーさんはええ人やいうことやな。それだけでもデタラメいうことがわかるやろ。だれやねんそんなこと言うたんわ。カッパ巻きにしたろか」
風車の弥七 水戸黄門シリーズより
「ええなあ、中谷一郎」
「えっ? なかや、なに?」
「ああ、あの人、中谷一郎いうんやね」
「そう、中谷一郎。雰囲気のあるええ役者さんや。あのおさむらいのちょんまげやない、あれなんて言うのかな、ヤクザもんの、人生の裏街道を歩いてる連中のトレードマーク、あのズラもぴったりやろ、よー似合うとるし、はまり役やな、風車の弥七」
「大活躍やもんね。縁の下の力持ちいう役やろけど、黄門さんがピストルとか弓矢で狙われて『あぶなっ!』思たときに飛んでくるやろ、風車」
「そうそう。思わず手を叩きとうなるな。セリフもええし、声もええし、ほんまにぴったりやな。この前、どんなストーリーやったか忘れてけど、黄門さんが弥七に叱られてたで、『ご隠居ともあろうお人が』いうて」
「ほんま。それ観てたかな。憶えがないわ」
「あれ、何本ぐらい持ってるんやろ? 風車」
「ちょっとかさばるから、そないにたくさんは持ってないやろ」
「あと、回収するんやろか?」
「どういう意味?」
「いやあ、悪人の腕なんかに刺さったあの赤い風車、あれな、一件落着のあと回収するんやろか、思て」
「どうなんやろ? けどおとーさん変わってんで」
「なにがぁ?」
「そんなこと考える人、そうはおらんやろ」
「まったくいてないわけはないやろ」
「どやろ。いてないで」
「あれな、風車。いつ拵えてはるんやろか? 弥七本人が合間合間に作ってんのか、それとも『親分、親分』言うてるうっかり八兵衛に作らしてるんか、どうかなー思て」
「観ながらそんなこと考えてんの、ちまちまと。おとーさんが出世せん意味がわかったわ。ほんまに、あきれるわ。おとーさんは、ええええ言うても弥七にはなれんな。内職で風車作らされるなんてイヤやで、しらんけど」
酒飲みの自己弁護
からだぢゅう毒がまわっていい気持ち
言われても毒ほどうまいものはなし
十八度5℃に冷やして毒を飲む
毒とわかって飲むお酒 毒ほどうまいものはなし
「おとーさん、飲まれもせんのに、よーゆーなあ」
「『酒は百薬の長』とか言いますな。また反対に『命をけずるカンナ』とも申しますが、おーい熊さん、なんです八っつあん」
「おとーさん、ふざけてる場合か。なにが言いたいの、いったい」
「べつに言いたいことない。ただ暇つぶしに言うてるだけや。強いて理由つけるんやったらボケ封じやな」
「しょーもなー」
「しょーもないことはない。『アホの考え休むに似たり』言うけど、アホなことでも自分のアタマで考えることはええことやで。ちょっと二枚目のにいちゃんに握手してもろたゆーだけで投票するから、丸山なにがしみたいなやつがコッカイギインでございゆーてのさばるんや」
「おとーさん、ちょっと横道逸れてんで」
「修正ありがとう。『百薬の長』ゆーんもええけど『命をけずるカンナ』ゆーんも、ええな。両方天秤に掛けてどっちがええか、甲乙つけがたしやけどどっちが好きかーゆーたら、命をけずるカンナのほーがええな」
「そらおとーさんが飲まれんからそー思うんやろ」
「そーかもしれん。百薬の長ゆーたら、チョウやからな、社長、校長、一番やゆー意味やからな。どんなクスリより酒が勝ってるゆーんやからヨメさんがなんと言おーと『さがりおろー! この紋所が目に入らぬか!』一件落着、てなもんや、なあ。また好きな人はうまそーに飲むからな。カツオのたたき、あれ家ではご飯のおかずで食べるけど、酒飲めたらよけーにうまいやろな。美味や美味」
「うまいことゆーわ。飲み助みたいにゆーて。それで肝臓悪して、さっさと早死にしたらえーんや」
「『命をけずるカンナ』か、うまいことゆーな。感心するわ。カンナやからなあ、けずられるほーの命やけど、どんな形してんのやろ。丸いもんなんか四角いもんなんか、長いもんなんか短いもんなんか、堅いもんなんかやらかいもんなんか、命ちゅうんはどんなんやろ? 材木みたいなやつやったらしゅしゅーっとけずりやすいけど、丸うてやらかいもんやったらけずりにくいで、職人でも。見てみたいなーイノチのすがたかたち」
「おとーさん、おとーさん。あーあ、また始まったな、ごちゃごちゃと。仕事でも行ったらどーやのん。しらんけど」
東野英治郎の水戸黄門シリーズを観るー2
「月形龍之介が出てたんもびっくりしたけど、志村喬が出てたんもいろいろ思うことがあっておもろかったな」
「なにが?」
「そやったかなあ?」
「気がつかへんかもしれんけど、出てんねん」
「『七人の侍』いうたら古い映画やろ」
「昭和29年封切りやからおれがここのつ、ママンがななつのころや」
「どこで出てた?」
「時代は戦国時代や。子どもを人質にした盗っ人が小屋に立て籠もってるところで、いまは浪々の身やけどという侍の志村喬がたまたま通りかかってな、盗っ人から子どもを取りもどすいうシーンやけど、その盗っ人役が東野英治郎と、そういうわけや」
「憶えてるわ。あの人がそうなん?」
「そういうこと」
「えらい出世やな」
「盗っ人から天下の副将軍やからな、たしかにえらい出世や」
「撮影の合間なんかにそのころの話なんかしはるんやろか?」
「そうやなあ、どうなんやろ? 先週やったかな、津島恵子が出てたんにも驚いたな。別に女優さんやから、出はるんは別に不思議やないけど、『七人の侍』のときは別にからみはなかったんで共通の話題はないんやろけど、それでも『あのころは』いう話になるんやないか、勝手にそんなこと想像してしまうんやな」
「けど昔の黄門さん、けっこうええ役者さん出てはるよ」
「はあ、昔のな。映画からテレビの時代になったからな。まだ映画で活躍してた人達の仕事が少のうなって、映画やったら最初に名前の出るような人がテレビではゲスト出演者になったり、へええ、あの俳優さんがと思うような人が悪役やってはって、黄門さんに『言語道断、恥を知りなさい!』なんて言われてはるんを観ると、なんか、ほんまかいな、思てしまうな。しゃあないけど」
「時代やからなあ、しらんけど」
東野英治郎の水戸黄門シリーズを観るー1
「最近では佐野浅夫とか、昔、助さん役やった里見浩太朗の黄門さん観て思うんは、やっぱりシリーズ最初の頃の東野英冶郎の黄門さんが一番ええなあ」
「そうやね。簡単に『この紋所が』言わへんしな」
「そうそう、作りが単純になって、あれは脚本のせいやろな。時間来たら簡単に印籠出しよるからな。それはそれで観てスッキリする人もいてはるやろからええっちゃええんやけど」
「けど、黄門さんて人気があるんやなあ。おとーさんは前から観てた?」
「いや、観てない。子供の頃、東映の時代劇で水戸黄門、月形龍之介がやってたんや。それ観てるからテレビで東野英治郎が黄門さんやるなんてなんやねん、そない思てたからな」
「なんで?」
「なんでって、おれが映画で知ってる東野英治郎言うたら汚れ役専門みたいなイメージがあったからな。月形龍之介と比べてしまうから全然観る気なんか起きなんだんや」
「いま観たらどないなん?」
「ええなあ。さすがは一流の役者さんや思う。おれが歳とったせいもあるやろけどな。ちゃーんと威厳のある黄門さんになってはるわ」
「そう、そうやねえ」
「おれが観て一番びっくりしたんは映画の黄門さん、月形龍之介が出てたことや。あれにはびっくりしたな。もちろん黄門さんやないで。村の庄屋さんかなんかやったと思うけど、東野英治郎の黄門さんに最後は助けてもろうてお礼言うというような、そんな役やったと思うわ。あれにはびっくりしたな」
「わたしは観てないからな。びっくりもしなかったよ」
「一緒に観てたんとちゃうかった?」
「テレビはな。けど映画の黄門さんは観てないから」
「ああ、そういう意味か。東野英治郎の黄門さん、始まったんはもう10年前か、いやもっと前かもしらんけど、亡くなってはる人がけっこう出てはるんやな。昨日は島田正吾が南部鉄器の名のある職人さんの役で出てはってびっくりしたけど、ええよなあ、島田正吾、辰巳柳太郎、新国劇の2枚看板。辰巳柳太郎いうたら大友柳太朗の先生やいうてたな」
「大友柳太朗いうたら、あの大友柳太朗?」
「そう、あの大友柳太朗。おれらが子供の頃『笛吹童子』とか、『紅孔雀』とかに出てて、どっちの役だったか憶えてないけど手の甲に三日月形の傷があって、五升酒の猩々とかいうて大酒飲み。チャンバラのときよう真似して、赤いクレヨンで描いたもんや」
「あのころはよう流行ったからね、チャンバラごっこ。鞍馬天狗とか」
「鞍馬天狗、アラカンか。嵐寛寿郎。この人は出てないのかな黄門さん?」
「どうやろ。調べてみたら」
「見当たらんなあ。1980年の10月か、亡くなってはるからな。40年近く前やからな」
「そしたら無理か」
「いや、東野英治郎の黄門さん始まったんは1969年になってるわ。ということは、場合によっては『水戸黄門と鞍馬天狗』があったとしてもおかしない、いうことか」
「おとーさん、なに言うてんの。時代が違うやろ」(つづく)
わからんことばっかりやなあ
「ママン、教えて。また北朝鮮が2発撃ったやろ。ここ何日間で5発やで。どんな意味があるんやろ」
「わからん。おとーさんがわからんことわたしがわかるはずないやろ」
「そんなこともない思うけど。やっぱりわからんよなあ」
「まえにもよーけ撃ちはったんやけど、あれも意味わからんかったんやけど、今度のやつも意味わからんなあ」
「考えてもしゃーないんちゃう?」
「そやな。考えてもしゃーないな。撃ちたかったらどんどん撃て。持ってるやつみーんな撃って、すっきりしたらどやねん、思てまうな。そないに撃ちたかったらちまちま撃たんと、撃てるもんやったらどーんとやらんかい、思てしまうな」
「ママン教えて。ホワイト国てなに?」
「あれ? おとーさん知らんの、ホワイト国。なんでも知ってる思てたのに」
「とーだい行ったおれでも、知らんことあんねや」
「なにがとーだいやのん。おかしやないの。テレビ中毒のおとーさんが知らんなんて、意味わからんわ」
「教えて」
「教えるほどわたしも知ってるわけやないけど、いま日本と韓国で揉めてるあれやんか。外すとかなんで外すんや、とか意味わからんわ」
「なあ、みーんなおれらよりアタマのええ、いわばエリート中のエリート言われるおっさんおばはんが、よってたかってあーでもないこーでもないゆーて揉めてるとこ見ると、なーんやあいつらもたいしたことないな、思てしまうな」
「よっぽどヒマなんやろ。退屈しのぎに時間つぶししてはるんやろ。わたしら、そんなヒマないわ」