風車の弥七 水戸黄門シリーズより
「ええなあ、中谷一郎」
「えっ? なかや、なに?」
「ああ、あの人、中谷一郎いうんやね」
「そう、中谷一郎。雰囲気のあるええ役者さんや。あのおさむらいのちょんまげやない、あれなんて言うのかな、ヤクザもんの、人生の裏街道を歩いてる連中のトレードマーク、あのズラもぴったりやろ、よー似合うとるし、はまり役やな、風車の弥七」
「大活躍やもんね。縁の下の力持ちいう役やろけど、黄門さんがピストルとか弓矢で狙われて『あぶなっ!』思たときに飛んでくるやろ、風車」
「そうそう。思わず手を叩きとうなるな。セリフもええし、声もええし、ほんまにぴったりやな。この前、どんなストーリーやったか忘れてけど、黄門さんが弥七に叱られてたで、『ご隠居ともあろうお人が』いうて」
「ほんま。それ観てたかな。憶えがないわ」
「あれ、何本ぐらい持ってるんやろ? 風車」
「ちょっとかさばるから、そないにたくさんは持ってないやろ」
「あと、回収するんやろか?」
「どういう意味?」
「いやあ、悪人の腕なんかに刺さったあの赤い風車、あれな、一件落着のあと回収するんやろか、思て」
「どうなんやろ? けどおとーさん変わってんで」
「なにがぁ?」
「そんなこと考える人、そうはおらんやろ」
「まったくいてないわけはないやろ」
「どやろ。いてないで」
「あれな、風車。いつ拵えてはるんやろか? 弥七本人が合間合間に作ってんのか、それとも『親分、親分』言うてるうっかり八兵衛に作らしてるんか、どうかなー思て」
「観ながらそんなこと考えてんの、ちまちまと。おとーさんが出世せん意味がわかったわ。ほんまに、あきれるわ。おとーさんは、ええええ言うても弥七にはなれんな。内職で風車作らされるなんてイヤやで、しらんけど」