カベノミクス
「なにがおかしいの? きしょくの悪い」
「いやあ、笑うわ」
「なんのこと?」
「トラちゃんよ」
「とらちゃん? あのとらちゃん?」
「どのとらちゃんのこと言うてんの?」
「あのとらちゃん言うたら、あのとらちゃんに決まってるやんか」
「あの、柴又のやろ?」
「そうそう。ちゃうの?」
「そやねん。アメリカのトラちゃんの話」
「アメリカのて? あの大統領の?」
「そう。笑わんか? 笑うやろ?」
「言うてる意味がわからへんわ」
「国境に壁、作ってはるやろ」
「それのどこが可笑しいの?」
「いやあ、作ったり壊したり、ベルリンの壁がのうなって何年になるかしらんけど、あっちで壊しゃあこっちで作り、人間ておもろい動物やな思て、笑てたんや」
「好きなんやろ」
「そやろな。好きなんやろ。万里の長城なんてのもあるからな。自分の思いどおりにしよ思て、人の言うこと訊こうとせんというんが、なんやしら世の中はびこってるからな。人さんの意見は見ザル訊かザル、けど自分の主張だけは無理からに通そうとする、言わザルやのうてなんぼでも言うザルと。えらいこっちゃ」
「おとーさん。おさまってる場合やないよ」
「なんや?」
「他人事みたいに言うてる場合やないよ」
「おれのことか?」
「そうよ、あんたのことよ。いまは歳とってまあまあ柔らこうなったけど、若いころのあんた、それやったんやで」