まんぷくラーメン
「なにする?」
「なんの話?」
「ひるごはんよ」
「食べたばっかりやないの」
「これだけが楽しみや」
「なにを情けないこと言うてんの。エベレストとは言わんさかい、甲山でも登っておいで」
「エレベストと甲山、えらい違いやな」
「おとーさんと、三浦さんの違いや。三浦さん、あんたより、とおも年上なんやで。山でも登ろういう気ィ、起きへんか」
「ぼろかすやな。それやったら負けんと挑戦しょか、エレベスト」
「エレベスト? なにそれ」
「山の名前やないか。世界一の山」
「エレベストやないやないの、エレベ・・・エレベ、もう、おとーさん、わけのわからんこと言うから、わたしまでわからんようになったやないの。なにがおかしいの」
「ママンが、甲山なんか言うからや。でなにする、? 昼、おれもう決めてんねん」
「なにすんの?」
「まんぷくラーメン」
「それテレビやないの」
「ラーメンに決めてるいう話や」
「そんならわたしもそれでええわ」
「土鍋、用意してくれる? あの一人用のやつ」
「あれ使うの?」
「そう、あれでやるんや」
「どないすんの?」
「ラーメンを土鍋にポン、入れるやろ、そこへ牛乳をひたひたに入れて火に掛ける」
「へええ、わけのわからんことやるんやな」
「煮立ってきたら、シュレッドチーズをひとつかみ、ふたつかみ、適当にパラパラ入れて、そこへたまごを落として蓋をする、それだけや。ラーメンカルボナーラいうやっちゃ。おいしそうやろ。やるか?」
「いや、シンプルでええわ。濃いそうや」
「お湯でやるんやな」
「そう」
「袋から出してやりや」
「だれが袋も開けんと、お湯かける人がおるの」
「わからんで。落とし蓋をする聞いて、足下に落とした人もおるらしいし、ご飯炊くとき、水入れんと炊いたいう人もおるらしいからな」
「そんな、と思うけど、わたしも聞いたことあるわ。給食センターでパートやってる人の話やけどな」
「どんな話や」
「若い、新人さんが入って来たんやて。その人がなんやぶつぶつ言いながら大根きざんでいたんで、なに言うてるの? 訊いたら、千切り言われたんで、数えてます、言うたんやて。意味わからんわ」
「ええ、そんなやつ・・・ママン、腕あげたなあ。やるやないか。そんでええねや」